あとは…
「いや。だが、手っ取り早い方法があるだろう?」
にやり。
さっきの笑みが浮かんだ。
手っ取り早いって、まさか…
私がその考えに思い至ったのと、アーチャーが行動を起こしたのは同時だった。
視界がアーチャーで埋まる。
手っ取り早く回復させるために、アーチャーは私にキスしたのだ。
「!!」
いくら魔力を移すのに有効だとは言っても、これはちょっとどうかと思う。
腕が上がらないから、どかしたくてもどかせない。
ふっと離れたので、睨んでみる。
「まだ無理かね?」
余裕たっぷりな表情で笑みを作る。
「…信じられない」
顔はまだちょっと離れただけの状態。
「もう少し魔力を分けた方がよさそうだな」
「結構よ!」
冗談じゃない。
顔を横に向けて赤くなってきた顔を逸らす。
「そのようだな。顔色が良くなったようなので止めておこう」
しっかりと赤い顔は見られたらしい。
悔しい…仕返しも出来ないなんて。
「そうやって徹夜したりするのなら、もう少し良い椅子にしたらどうだ?」
私の様子を見てからかっていたアーチャーは椅子に視線を移して問う。
「でも、うっかり寝ちゃっても居心地の悪さで目が覚めるから悪いことばかりじゃないわよ」
下手に良い椅子なんて座ったら、きっと寝こけて起きないだろうし。
「なるほど、君にはちょうどいいというわけか」
いつもの表情に戻って、立ち上がるアーチャー。
「その状態では降りて来られないだろう?紅茶を持ってこよう」
アーチャーはそういうと下に降りていった。
心底楽しそうにからかっていると思えば、優しく気を使う。
それを平然と普通にやってのけるから質が悪い。
アーチャーから分けてもらった魔力が馴染んだのか、体が軽くなった。
「起き上がれるみたいね…」
自分の体調を確認して、今度は困惑した。
「まいったなぁ…されても嫌じゃないなんて、どうかしてる…」
自分に浮かんできた感情に、戸惑う。
しばらくの間は、その問題に頭を使うことになりそうだ。
椅子に座ったまま貧血なんて起こさなければ良かったなと反省しつつ、紅茶が来るのを待つのも…いいかな?



気が強い子が強がってたりすると可愛く見えるかな?という感じで書いてみました。
初めは怒る気だったんですが、途中で変わってしまった…というところでしょうか。
どんな凛様でも、きっと愛しくてたまらないんでしょうねー
椅子ってタイトルが泣いてるね…(汗)