「ただの茶坊主じゃなくてよかったわ」
逸らした視線の先にはいないアーチャーから、小さな笑いが漏れる。
「酷い言われようだな。君を師匠に持つ魔術師が不憫に思えてならない」
アーチャーから返ってきた言葉に、私は逸らした視線を戻して睨んだ。
見ればアーチャーはからかっている時の笑みを浮かべて私を見ている。
「失礼ね、そんな事させないわよ。あ、でも士郎は別ね」
私の挙げた名前にピクリと反応するアーチャー。
なぜかは知らないけれど、アーチャーは士郎を嫌っている。
「あの小僧は弟子でもなんでもないだろう。魔術師としては半人前どころかそう呼ぶのもおこがましい」
「アーチャーが士郎のことをどう思っていても、士郎は私の弟子よ。それは変わらないわ」
無表情に言い切ったアーチャーに、私もきっぱりと告げる。
「士郎には家事の才能があるみたいだから、如何なくその才能を発揮して欲しいわ。執事の見習いに出すのも楽しそうね」
「…凛、それは弟子では無くて小間使いとか家政婦とか言わないか?」
表情はそのまま。だけど、気配は優しくなっているアーチャー。
「遠坂凛の弟子はそれくらいやらないとね。その分、しっかりと教えるけど」
私の言葉に呆れたのか、仕方がないというような気配が伝わってくる。
「でも、きっと…」
「なんだ?」
私の不自然に切った言葉に、アーチャーは少しだけ表情を崩して聞き返す。
今だけは、言ってあげてもいいかな、なんて思ったから。
「私を満足させられる紅茶を淹れられるのはあなただけよ。だから…私に無断で消えたりしないでよね」
ちょっとだけ赤くなる顔を意識しながら、それでもちゃんと顔を見て言った。
私の言葉を聞いたアーチャーは満足そうな顔をしていて。
皮肉な言葉とか、からかうような言葉とか、飛んでくるんじゃないかと思っていたのに。
それは意外な反応だった。
「それは光栄だ。茶坊主と言われるのは心外だが、喜ばれるのは嬉しい。君の前から無断でいなくならないと約束しよう」
それはきっと、アーチャーの本心からの言葉。
そう思ったら、抑えていた恥ずかしさが戻ってきて、顔が赤くなるのを感じた。
「あなたは私のサーヴァントだもの、当然よ」
誤魔化したくてまた視線を逸らす。
「ああ、当然だ。私は君のものだからな」
真剣な表情でさらりと言ってのけるアーチャー。
私は耳まで赤くなってきたのを意識すると、紅茶を飲み干して席を立った。
「もう寝るわ。おやすみなさい」
ロクに顔も合わせないで、私は足早に立ち去ろうとドアに手をかけた。
こんな真っ赤な顔でアーチャーとなんて真正面から挨拶できない。
からかわれるに決まってる。
「おやすみ、凛」
後ろから、アーチャーの声が聞えたけれど、私はドアを開けて廊下へ出た。
少しでも早く、自室に戻りたい。
必死の形相で部屋へと私が戻ったその後、一人残されたアーチャーが私の考えを何もかもお見通しで一人で笑ってるなんて、知らない。
それも、ものすごく幸せそうな笑顔を浮かべてるなんて…知らないことだ。
それが少し悔しいけど…。



頑張りました…これが私の精一杯です…(汗)