4.関係
私と彼女の関係は一言で言うのなら主従。
けれど、それでは言い表せない時がある。
「アーチャー、紅茶淹れて」
「了解した」
自室で魔術の研究に励んでいる彼女は、振り向くことなくそう命令した。
私もそれを当たり前のように受ける。
普通の主従であるのならば、有り得る事だろう。
だが、私たちの主従関係は少し違う。
厳密に言うならば、聖杯戦争に限っての主従。
普段の生活での使役は該当しない。
それが普通に使役できてしまうのはマスターである彼女が並外れた魔術師であるということに他ならない。
並外れたでは無く、規格外と言われることが主だったと思い出すが、それは些細なことだ。
使役される身にとってはどちらでも変わらないのだから。
徹夜で研究に没頭している彼女に、軽めの紅茶を用意する。
本来紅茶はカフェインが多く含まれている。
カフェインと言えばコーヒーを連想しがちだが、実は紅茶の方が含まれる量は多い。
眠気覚ましの一杯ならばそれでもいいが、彼女は徹夜明け。
そんなものを飲んだら、眠ろうと思ったときには目が冴えてしまう。
紅茶の中にはカフェインの入っていないものがあるので、それを選んで淹れる。
我ながらこの執事の体質には苦笑を禁じえないが、こればかりは仕方が無い。
紅茶を淹れ終えると、蒸らしの時間を考えてお茶を運ぶ。
勝手にドアをあけ、彼女の自室に入る。
いつもならノックをしろと怒られる所だが、研究に没頭している彼女の耳にはノックの音が届かないので割愛する。
「凛、紅茶が入ったぞ」
「ん、ありがと。そこに置いて」
「研究するのはいいが、程ほどにしたほうがいいぞ」
「分かってるわよ。アーチャーってばお母さんみたい」
「む?保護者だという自負はあるのだがね」
「そんな風に思っていたのね…」
ようやく机の上から視線を私に向けて、少し不機嫌になる。
しばらく何かを考えていたようだが、ふとひらめいたような顔をして
「you are mine,aren`t you?」
そう、呟いた。
英語での質問。いや、確認。
サーヴァントが英語でも返事をしてくれるとかそういったことは考えてはいないのだろう。
そうでなければこの日本の街でさまざまなサーヴァントを呼ぶことは出来ない。
セイバーが母国語しかしゃべらなかったら、今頃小僧は頭を抱えてどうしようかと悩んでいることだろう。
答えを求める視線を投げかけたままで彼女は私を見ている。
「it is as you say.」
英語で来たのなら、英語で返す。
予想していなかったのか、目を丸くして驚く凛。
「意外だったかね?」
少し意地悪く笑ってみせる。
「以外って言うか…ますますどこの英霊なのか分からなくなったわ」
「自分で振ったことだろう?それに答えたまでだ」
しれっと返して、研究はこれくらいにして眠るようにと諭す。
なにやら文句があったようだが、睡魔には勝てず、ベッドに入ると同時に眠ってしまった。
「こうだから、保護者だと言うのだがね…」
もう聞えていない凛に、苦笑して呟き部屋を出た。
紅茶はそのままだったので、アイスティーにしようと考えている自分に、つくづく執事体質なのだと思った。



英語の部分、凛の台詞は「あなたは私のものでしょう?」で、アーチャーの部分は「おっしゃるとおりです」という意味です。
英語の能力は無いので、以前に見た漫画の台詞から拝借しました。
ものすごく私好みな話なんですよ。
執事と小さなお嬢様。似てるよね、二人の関係に…だからツボにはまってるんですけどね(苦笑)