夕暮れ時の公園で、おかしな行動を取る高校生男子が一人。
彼は一心不乱に穴を掘っていた。
一見するなら小学生レベルの悪戯。
だが、悲しいかな、彼は本気で掘っているのだ。
直径二メートル、穴を隠すには問題のある大きさの穴を掘る高校生。
他の誰でもない、高崎普賢その人であった…

天才と何とかは紙一重?

一心不乱に穴を掘る彼から数メートル離れたところに彼の後輩は固まっていた。
簡単に言うなら見張りだろうが、何故見張りが三人で掘るのが一人なのかは突っ込まないでやって欲しい。
これは、彼のたっての願いだから。
一方、見張りに三人もあてられた張本人たちは困惑していた。
本来ならば年上の彼が見張りで、肉体労働は後輩の自分たちの役目のはずだ。
なのに何故か先輩である彼はひとりで掘りたいと言う。
その理由は分かってはいるが…理解しきれるものではなかった。
高崎普賢が一人で掘りたい理由。
女子高生に会いたくないから。
見ることすら拒否するほど女子高生を嫌悪したことがない彼らは、分かるような分からないような心境のままで見張りをしていた。
それに。
一体何時まで掘っているつもりなのか?という疑問もある。
そろそろ止めようかと三人で決意したとき。
「よし、完成だ」
見事なまでに穴を隠した高崎普賢の、決して大きくはない歓声で事態が好転したことを三人は知った。
これで寮へ帰れる。
穴掘り中に女子高生が来なかった奇跡を三人は喜んだ。
「良かったですね、じゃあ寮に帰りましょう。門限に遅れるのは良くないですよ」
金髪をなびかせ、後輩・青柳蘇芳は先輩に濡れたハンカチを手渡した。
蘇芳が普賢の相手をしている間、残りの二人は出来上がった落とし穴を眺めていた。
「人通りが少なくてもこの出来はまずいよね」
童顔で少し苦笑した少年が、同じ顔のポーカーフェイスな少年に小声で語りかける。
語りかけられた少年は小さく頷き、辺りを見回す。
見つけたのは木の棒。
それを手に取ると、少年はおもむろに地面を引っかき始めた。
「これでいいと思う」
暗闇の地面は一見すると何もされていないように見える。
だが、顔を近づけて見た少年は笑みを浮かべ、完璧だねと返した。
普賢の暴走を止めるのが蘇芳の役目。
行動に対する対抗策を練るのは、結城ツインズ…架月と都月の役目。
一緒に行動しているようで、その実彼らは被害がでないようにと裏工作をやっているのだ。
明日の朝、公園を通過した小学生たちに伝説となる落とし穴も、穴の手前に落とし穴がありますと書かれていれば被害もでない。
穴を掘った本人は知らないのだ。
彼が今まで仕掛けてきた罠が、一度として誰も引っかかったことがないことを。
そして、その罠はこれからも被害者が出ることはないということを、知らない…。