殺気を強めるランサーに、いつも通りの不敵な笑みを浮かべて返すアーチャー。
間違いなくランサーを挑発している。
「斬り合いでこの俺に敵うと思ったか…!!」
私の目には映らない速さで槍を繰り出すランサー。
驚いたことにアーチャーはそれらの攻撃を悉く弾いて見せた。
動揺したのは私もランサーも同じ。
鷹の目を持ち、超遠距離からの射撃を得意とするアーチャーの腕はこの目で見たから超一流だと知っている。
だけど、これは…
剣を弾かれ、砕かれても次々に現れるアーチャーの剣。
あれが彼の宝具ではないのはクラスからも分かるけれど…
何故こんなに彼は剣を次々と出せるんだろう?
「てめえ、どこの英霊だ?次から次に剣を出してくる英霊なんざ聞いたことがねえぞ!」
それには激しく同意見だ。
戦いに見とれて身動きとるのも援護するのも忘れてるけど、この光景がどれだけ異常なのかは分かる。
だから、失念していたのだ。
この場に誰かが現れて、この光景を見られてしまう恐れがあるということを。
最初に気づいたのはランサーだった。
耳が良いのか、彼はすぐに部外者の存在に気づいた。
気づかなかった私は後手に回り、ランサーが部外者を消しにいくことを失念していた。
あんなものを見た後だから呆けているのだ。
「凛、放っておいていいのか?」
「え?あ、追うわよ!」
「今から言っても遅いとは思うが」
「四の五の言わない、ついてくる!」
無理矢理にアーチャーを連れて、ランサーの消えた校舎内に走る。
たとえランサーにやられてしまった後でも。
状況判断を怠った私の責任だ、だからせめて死に際くらいは看取ってやらないと。

一足先に部外者を追ったランサーは廊下で部外者を追い詰めていた。
胸元に合わせられた槍の先を、気軽に手を差し出すように出せば、事は済む。
「まあ、見ちまったのが運のつきだったな小僧。苦しまないように殺してやるからよ」
ランサーは無表情に近い表情のまま緊張感の無い口調で語りかけた。
ランサーに見つめられた少年は声も出さずにただランサーを見上げている。
瞳には絶望の色。
自分はここで殺されるという諦めと、殺されなければならない戸惑いが浮かんでいた。
ランサーが槍を突き出そうと手に力を篭めた時だった。
遠くから聞えてきた馬のいななき。
そんな訳は無いと思いつつも、ランサーは聞えた方向を見た。
その刹那の轟風。
何かが物凄い速度で向かってきていると悟ると、ランサーは素早く身を翻してその場から離れた。
一瞬遅れていたら巻き込まれていたであろう轟風と轟音に唖然としながらも、何が起きたのかと思考を巡らせる。
風が通り過ぎた辺りには追ってきた少年がいたはずだ。
自分が手を下さなくともあの轟風の爪あとを見る限りでは助からないだろう。
だが。あるはずのものがそこには無い。
いかに轟風に吹き飛ばされたといっても、大地を抉る様な風であっても。
少年の何かが残っていてもいいはずだとランサーは思った。
しかし、見渡してもあるのは風の爪あとのみ。
だとすれば考えられることは一つだけ。
非常に考えたくはない事だったが、結果を見れば明らか。
「…逃げられた……まじかよ…」
ランサーはその場にへたり込んで落胆した。
そして、次の瞬間。
背中を丸めて震えている様子を凛に目撃されたのである。


続く