悪戯しそうな笑みが浮かぶ。
「保護者として悪い虫は特に払う主義でね。徹底的に払わしてもらう」
「なあに?それって、娘は嫁にやらんとか言うヤツ?」
悪ふざけな事を言うアーチャーに、私も調子に乗って答える。
そう、こんな距離がいい。
さっきみたいに踏み込まれたら、今度はきっと抑えきれない。
あなたが好きなのだと、泣いてしまうだろうから。
「そうだな。私がついている限りは悪い虫がつくことはないだろうな。納得できる相手でなければ嫁にはやれん」
保護者として当然だというように頷くアーチャー。
「でも、アーチャーが納得するような相手を探していたら私…嫁にいけなさそうね」
アーチャーが側にいるならそれでもいいけど…なんてちょっと思ったりして。
「そうだな。そのときは…私がもらうとしよう」
「え?」
いつもの会話に戻ったと思って、思考が緩んでいたから反応が遅れた。
「だから、嫁の貰い手がないのならば私がもらおうと言った。その為には…聖杯に人にしてもらわなければならんがな」
意地悪を言うような、悪戯をするような眼をして笑う。
だけど、私は笑えなかった。
赤面しているのが、分かる。
冗談だって分かってるのに、頭はそれを真に受けてしまった…っ
「ば、馬鹿なこと言わないでよ?!そういうことは聖杯獲ってからでしょう?!」
思考が混乱して、訳が分からない事を口にしてしまう。
「そうだったな。では、聖杯を獲ってからまた話そう」
「な、そういうことじゃなくて…!」
思考が追いつかない。
冗談だと分かっているのに、動揺して上手く考えられない。
「違うのかね?君は願う願いはないといったから、構わんだろう?」
「それはそうだけど…!あなたはそれでいいの?!」
私の言いたい事に気づいて、更に笑みを深めるアーチャー。
自分の反応が火に油を注いでいると分かっているけれど、止められない。
「ああ。望むところだよ、凛。君を嫁にもらえるのならば、人間になるのも悪くはない」
そんなことを、さらっと言ってしまうアーチャーは、きっと生前は女ったらしだったに違いない。
そう思うのに、言い返せないのは好きになってしまったからだろうか。
「ふ、ふん。それなら、責任取って私を幸せにしなさいよね?じゃ無いと許さないから」
「いいだろう、マスター。その言葉、忘れないでいただこう」
何でこんなことになったんだろうと思うけど。
でも、先に見えてきた未来がとっても幸せそうに見えるから、よしとしよう。
例えそれがアーチャーの冗談でも、その言葉だけで生きていけるから。
「馬鹿なこと言ってないで、そろそろ見張りに立ちなさいよ?」
「ああ、マスター」
私の動揺を見て楽しんでいるアーチャーは、霊体化しながらも楽しそうに笑っているのが分かった。
「全く、人の心も知らないで…」
好きだから振り回されて。
一喜一憂しながらもっと好きになる。
「それにしても、アーチャーの好きな人って誰なのかしら?」
結局聞きそびれた気がする。
自分以外の名前が出るのは悲しい。
でも、いつかはきっと笑顔で聞ける日が来るはず。
それまでもう少し大人にならないと。
「後悔させてやるから、見てなさいよ」
今はいない相手に向かって、私はそう呟いた。
聖杯を獲って、後悔させて見せる。
しばらくは聖杯をとることだけを考えられるだろう。

続く