遠坂邸・居間にて

「ほんと、何でも作れるのね。あそこまで完璧な御節は初めてだったわ」
「そうかね?喜んでもらえて何よりだ」
毎年教会に行ってミサをして、適当に過ごしていた年末年始。
ここは日本なのだから、こういうすごし方もあるんだけど…
「楽しい三が日だったわよ?それにしてもこの家に着物なんてあったのね」
もしかしたら生まれて初めて位かもしれない。
正月って、ただ過ごすだけだと思っていたけど…そうじゃないのね。
「夏過ぎの大掃除で見つけたんだが…君は知らなかったのかね?」
「知らなかったわよ。そもそも、この家にあるなんて思わないし…」
「そうかね…君の振袖は…君の父君が用意していたものではないかと思うのだが…」
やや歯切れ悪く言うアーチャー。
それで、私はアーチャーの言いたいことに気づいた。
「もしかして、これ成人式用の振袖…ってこと?」
「だろうな。早々と用意していたのだろう」
鮮やかな紅色の着物。
父さんが用意してくれていた、振袖。
「ところでアーチャー」
「何かね?」
「どうして着付けの仕方なんて知っていたの?」
三が日過ぎの居間に流れる不穏な空気。
元旦に着物を出してきたアーチャーは、ある程度まで指示を出して私一人に着付けをさせ、帯を締めるときには自らの手で締めるほどに着付けしなれていた。
「それについてはノーコメントだ。契約に触れる」
「着付けの技能が契約に触れるなんて、よっぽどの事があるんじゃない。だったら着付けたりしないでよ…」
どんな契約なんだろうかと、ちょっと本気で思ってしまった。
着付けの技能そのものが触れてはいけない事ではなくて、身につけた経緯とかが触れてはいけない事なんだろうか?
「まあ、そういうことにしておいて貰っても構わないが…」
私の言葉にいつも通りの笑みを浮かべるアーチャー。
「君の振袖姿が見たかったものでね」
「なっ…アーチャー!」
してやったりな笑みを浮かべたアーチャーの言葉に、つい大声を上げてしまう。
「それ以外に理由がいるかね?正月くらい、着物を着るのもいいだろう」
「そうじゃなくて、アンタのその発言がどうかって言うのよ!」
新年早々からこんなにも振り回されていると、今年一年もこうなのかと思ってしまう。
「ククク、いや、新年ぐらい言ってもばちは当たるまい。それでは紅茶を入れてこよう」
問題発言を繰り返してキッチンへと消えていくアーチャー。
私一人が残された居間は、アーチャーに当たり損ねたクッションが落ちているだけで静かなものだ。
それにしても…本音だったのかしら…見たかっただけというのが理由って…?
今年もこんな感じなんだろうなと思う年始だった。
後日七草粥やら鏡開きやらと正月イベントを過ごした我が家。
何気にアーチャーって日本人より日本人らしいなぁと思った私だった。