12.正義の味方
その表情を目撃したのは、休日の衛宮さんちの居間だった。
朝の特撮ヒーローものの時間帯、たまたま点いていたテレビは特撮ヒーローの姿を映し出していた。
そして、それを見つめて固まる赤い影。
いつもならこの家で実体化するのも珍しい彼が、実体化している。
ヒーロー物が好きと言うのではなく、たまたま目にしてしまったと言う感じの、表情。
無表情ではあるけれど、どこかぎこちない感じがする。
士郎もセイバーも今は道場で稽古中だから、ここにはいない。
「そういうの、好きなの?」
客間と居間を繋ぐ廊下、居間との境界線上に立ったままで私は問う。
私には一応気づいていたのか、動揺はしない。
何事も無かったかのようにこっちを見て、いや、とだけ呟いた。
好きじゃないのに凝視している。
それは一体いかなる心情の上で成り立つ行動なのか。
「そういうのを見るのがはじめて?未来ではやっているのかどうかは知らないけど、
それを見ても驚かないって事は、あなた、遠い過去の英霊ではないってことよね?」
観察していて思ったことを口にしてみる。
初めてなのかと誰何したが、私の感が正しいのなら初めてではないはず。
「ああ、見たことはある。それがいつかなのかは定かではないが」
はぐらかした?それとも本当に分からない?
彼の表情は実に見にくい。
士郎のように言いたいことが表れていれば扱いが楽だと思うのだけど。
まあ、それは士郎が子供っぽくて、アーチャーが大人だからという違いもあるんだろう。
「私は見るのは初めてかもしれないわね…もしかしたら覚えていないだけで見たことあるかもしれないけど」
これは、本当。
遠坂の家にはテレビが無いから。
繰り広げられる、分かりやすい正義と悪の図式。
小さな男の子たちはこれを見て一度は正義の味方を目指すらしい。
まあ、稀に士郎みたいな、本気の夢になっちゃう人もいるみたいだけど。
「見たことあるのって、小さい頃?憧れたの?」
アーチャーの小さい頃って想像できない。
誰だって子供時代があるんだから、あったっておかしくないんだけど。
さすがに小さいときは素直な性格してたんだろうか?
「今、失礼なことを考えただろう?」
少し不機嫌そうな表情でアーチャーが呟いた。
「あなたの小さい頃が想像できないなって思っただけよ」
素直に白状。
乗ってくれれば話してくれるかも知れないし。
「…人に話すほどの子供時代ではないさ。その辺の子供とそうは変わらない」
そういったアーチャーの表情は少し空虚に見えて、何だか胸騒ぎがした。
いつもは自信満々と言った表情をしている彼が、空虚になる。
ただの子供時代の話なのに、彼はその話を拒んでいる。
どんなトラウマがあると言うのだろうか。
それに。
彼は私の質問に答えてはいない。
「正義の味方は嫌い…?」
それは、ふと思いついた結論だった。
「それは…」
私の顔を見つめるアーチャーの表情は驚きを隠さないまま。
「嫌いと言うよりは…苦手と言うべきだろうな」

続く