13.背中
夜の校庭でランサーと戦っている時も、頼りになると思うのと同時に不安もあった。
こんなことを言えば、きっと信用されていないのかとか色々言われるだろうから言わないけれど、それは予感めいた、漠然とした…思いだった。
何故そんなことを思ったのか、自分でも分からない。
だけど、彼が約束を果たすと言うたびに広がっていく不安は消しようが無くて…
直に触れてみてはその存在を確認して不安を取り除きたかったのかもしれない。
「凛?」
バーサーカーとあと数時間もしたらやり合う。
そんな状況の中で、背中に触れた私に違和感を感じたらしいアーチャーは心配げな表情を見せた。
「珍しいわね、そんな顔をするの」
「珍しいのは君の方だろう?いきなり背中を触るとは…何かあったのかね?」
「士郎がイリヤスフィールに拉致されたわ」
「!!」
言葉は、それだけで十分だった。
次第に強張っていくアーチャーの表情。
きっとそれは私の行動が読めたから。
「助けに行くつもりか?凛」
その一言は鋭利な刃物のように鋭く私に刺さる。
「ええ。行くわ、助けに」
刃物が刺さる痛みなら、慣れている。
魔術回路を起動させるときの私のイメージは刃物に刺されるイメージだから。
でも。
一瞬見えた彼の目の色は…とても悲しいものに見えて、辛い。
「セイバー一人じゃ殺されに行くようなものよ。共闘しているわけだし、いつかはバーサーカーともあたるわ。いい機会よ」
ますます険しくなる表情。
いつもは無表情かと思うくらいにポーカーフェイスなのに、士郎が絡むと表情が出てくる。
嫌悪と言うよりかは…同属嫌悪、だろうか?
どっちにしても、そんなことを考えてる時間は無い。
用意する時間は三時間とかそこらだろう。
ならば、打てる手はすべて打たなければここで終わってしまう。
「何故助ける?ほおって置けばいいだろう?君がわざわざ危険な橋を渡ることは無い」
アーチャーの言いたいことは正論だろう。
士郎とセイバーのコンビも、いつかは倒すべき敵になる。
それをわざわざ最悪の敵がいるところまで助けに行くなんて、聖杯戦争をやっている魔術師の行動ではない。
だけど。私は自分の心が分かってしまった。
「アーチャーの言いたいことは分かるわ。でもね、私…二人のことが好きなのよ。だから…助けたい。それじゃ駄目?」
心を素直に告げた。
アーチャーは動揺しているのか呆れているのか、複雑な表情で私を見ていた。
「ごめんね、アーチャー。あなたから見れば理解できない行動だろうけど、私はこうしないと後で後悔するから。
聖杯を手に入れても…嬉しくはないだろうから」
感情では動かない彼に、どれだけ分かってもらえるのか。
でも、自信はあった。
最後の最後の決断は、私に任せてくれる。
それがどんなに自分の意に沿わないことでも、彼は遂行してくれる。そんな、予感。
冷たく見えても優しいのを、私は分かっているから。
「分かった。もう何も言うまい。君が一度言ったことを覆さない性格なのはよく分かっているからな」
諦めの言葉を、いつもの表情で告げるアーチャー。
その瞬間、いつもの既視感が私を襲った。

続く