少しだけ目を覚ました彼女は、ここが自宅であると分かって安心したのか、深く眠り始めた。
私の姿を見たように感じたが、視界がまだ回復していなかったのだろう。
特に気に留めることも無く、その目は閉じられた。
今は彼女とは繋がっていない。
自分が仮死状態でいた為なのかは分からないが、今の彼女の状態から考えると、ラインが切れていて良かったと思う。
彼女の魔力がある程度回復するまでは少し、休ませて貰うとしよう。


夢が途切れて、突然目が覚めた。
体の調子は相変わらず魔力不足で、傷の部分が傷むけれど動けないほどではない。
ゆっくりと周りを見渡す。
さっき見た、自分以外の赤は誰なんだろうか?
思いつくのは一人だけど、誰かがたまたま赤い服着てたのかも知れないし。
それに、令呪が消えたんだもの。生きてるはずが無い。
生きてるはずが無い…のに。
視界の端で、その姿を捉えた。
見間違えるはずの無い、その姿。
所々怪我とかしてるし、服だってずいぶん破けたりしているけれど。
見間違えなんかじゃ、無い。
「ちょ…何であんたがいるのよ?」
それは小さな声だったけど、その声が聞えたのか、アイツはゆっくりと目を開けて私を見た。
幻ではないということを確かめようと、私は起き上がろうと試みる。
わき腹に走る激痛。
あまりの激痛に、表情がゆがむ。
「まだ起き上がれないだろう、横になっていたほうがいい」
私の行動を察してか、彼は駆け寄ってきて私の体を横にした。
「なんで…?消えたんじゃ…」
私の手には令呪はない。
いくらアーチャーのクラスに単独行動が出来るスキルがあっても、あれから時間もたっているし…
なにより、これだけ傷ついている状態でなぜ彼は動けるだけの魔力があるのか?
「もうここに寝ていなくても大丈夫なのかね?それならば部屋に移るとするが」
「質問に答えてないわ。何故ここにいるの?」
「何故ここにいるのか、と聞かれても答えを持ち合わせていなくてね。答えられず、すまない」
彼は簡潔に答えを言った。
「自分でも分からないってこと?」
「まあ、平たく言えばそういうことになるな。気がついたらアインツベルンの城の瓦礫の下にいたよ」
少し大げさだけど、彼は心底不思議だと言わんばかりの表情を見せてくれた。
「ところで、一ついいかね?」
彼が私を抱えて上へと上がろうとして足を止めた。
ちょっと困惑するような、でも楽しんでいるかのような、表情。
「なに?内容によるけど」
嫌な予感がしたので、先に牽制してみる。
まあ、彼にはそんなに効果が無いんだけど。
「なに、この血まみれのままでは布団に入りたくないだろう?着替えはどうするのかと思ってね」
「そ、そりゃあそうだけど…」
それは当然の質問だった。
血まみれのままでは布団はおろか、ソファにだって座りたくない。
かといって、自分で動けるだけの体力は無い。
桜を呼んで着替えさせてもらうか?
いや、駄目だ。こんな姿を見せたくは無い。
だからって、コイツに任せるなんてもってのほかだ。

続く