例え駆けつけたとしても、私には何も出来ない。
「偵察に出ている間に着替えていたまえ。戻り次第部屋へと移動させる」
「分かったわ、お願いね」
私の答えを聞いて、彼は柳洞寺へと出か掛けていった。
必死で頑張って、体を拭いて着替え終えると同時くらいに彼は戻ってきた。
「終わったようだな」
「ちょうど終わった所よ。で、そっちはどうだったの?」
「気にするな、アレがある限り、負けることは無い」
それって、どういうこと?
「なに、勝負はついていたということだ」
…………ええー!!?
「うそ…士郎は?」
「言峰神父に勝った、というべきかな」
「それじゃ、私最後は役立たずだったのね…」
そういう役回りかなーとは思ったけれど。
「で、何でアンタは聖杯壊したのに現界してるのよ?」
魔力の出所分からないどころか、存在自体が危うい状態なのに平然としてるのってどうなんだろうか。
「確かにそうだな。君の状態が万全ならば契約することで現界し続けることも出来るだろうが…」
完全なイレギュラーらしい。
「まあ、抑止者であることを考えると、まだ何か役目があるのかも知れん。嬉しくはないがな」
聖杯が存在しているとでも言うのだろうか?
「なんにせよ、しばらくは君の世話で忙しいようだがね」
くくっと低い声で笑うアーチャー。
「なっ…」
反論してやりたいところだけれど、きっとその通りになると思うので出かけた言葉は飲み込んだ。
元気になったら覚えてなさいよー
「とりあえず、やることが一つあるわ」
「何かね?」
「私と再契約しなさい。そのままじゃ不安定すぎるわ」
いくら勝手に現界出来ているとは言っても、いつ魔力が尽きるとも分からない。
そこそこ回復している今なら契約しても大丈夫だろう。
「それはかまわんが…令呪は無いと思うがいいのかね?」
「そんなことどうでもいいわよ。戦争するんじゃないんだから」
「了解した」
アーチャーは潔く頷くと、私の前で跪いて私の手を取った。
「我が剣は君とともにあり、君の命は我とともにある。ここに契約は完了した、君がマスターだ。凛」
最初の召喚の時には聞けなかった言葉。
感動してたりすると、手の甲に伝わった感触に気づくのが遅れた。
こう見れば騎士なんだと思い出す。
「これからしばらくは私と一緒に隠遁生活ね。ああ、士郎を襲うのは禁止」
「む?なぜかね」
「当たり前でしょう?士郎より私を構いなさいよ。士郎のこと考えてるのって微妙な気分よ」
この際だから、言いたいことは言っておく。
「本当はね、あの時…」
「分かっているよ。だからこうして君の元に戻ってきただろう?」
契約が切れていたのだから、本当はどこにだって行けたのだ。
やろうと思えば偵察に行ったときにだって士郎を襲えたはず。
それをしなかったのは、多分。
「君が望まないことはしないよ。それが私の不本意なことであっても、だ」
「ある程度なら私だって止めないわよ。士郎いじり位なら、ね」
「了解した。それは楽しみにしておこう」

続く