2.茶坊主

「ねぇアーチャー、あなた…紅茶の淹れ方どこで覚えたの?」
夕食後、私は初めから抱いていた疑問を口にした。
召喚して契約した日の朝、彼は私が納得する紅茶を淹れてくれた。
「急に何を言うかと思えば…」
アーチャーは紅茶を淹れる手を止めて私を見た。
「騎士には要らない技能よね?サーヴァントになってから覚えたの?」
私はアーチャーが怪訝な表情を浮かべているのをまじまじと見ながら尋ねる。
「いや、これは生前のものだ。サーヴァントとして蓄えることが出来る記憶は戦いに関わるものだけだからな」
表情はそのままでもアーチャーは律儀に答える。
答えたくないことならはぐらかすけど、大抵は答えてくれる。
何だかんだ言ったって、優しいのだアーチャーは。
「騎士のたしなみ…ではないのよね?」
「いや、それもちがう。騎士のたしなみかどうかはせいバーを見ていれば分かるだろう?」
表情をいつもの無表情に変えて、アーチャーは話し続ける。
私はアーチャーに言われてセイバーを思い浮かべた。
確かに紅茶の淹れ方なんて知らなさそう。
でも彼女にそれが通用するのかは分からない。
なんたって、あんなに可愛いくて小さくて…それなのに最優のサーヴァントなのだから。
多分一介の騎士ではないのだろう。
「私の師匠は紅茶が好きでな。うまく淹れないと良く叱られたものだ」
少し懐かしむような口調。表情はいつものままなのに、そう言ったアーチャーはひどく優しい表情をしているように感じた。
「何の師匠なの?弓?」
表情のことは追求せずに、私は違う質問をした。
なんとなく…聞いてはいけないような気がしたからだ。
「もう覚えてはいないが…その為も含めて執事の見習いをしたことは記憶している」
あまり過去のことを記憶していないらしいアーチャーから聞いた過去の話は新鮮だった。
でも執事っていつの時代からあるのかしら?なんて思ったりして。
「ふうん…ずいぶん変わってるのね?」
思いがけず過去の話を聞けて上機嫌になっているのを悟られないように、私は努めて興味が無いような素振りをした。
「君にとっては幸運なことだろう?他のサーヴァントではこうは行かないだろうからな」
そう言ってアーチャーは悪戯っぽい、私をからかうような笑みを浮かべた。
もしかして気づかれてる?
「それはラッキーだったと思ってるわよ」
本心を見透かされるんじゃないかと思い、少しだけ視線を逸らす。


続く