体を、ベンチの上に寝かされた…んだろう。
両肩を抑えられて、身動きは取れない。
これじゃあまるでアーチャーに襲われてるとしか…
アーチャーの真意が分からなくてじっと観察してみる。
怒るでも呆れるでもない、真剣な表情。
こんな状況で観察なんてどうかしてるかもしれないけど、仕方が無いのだ。
私はアーチャーのことを知らないから。
「アーチャー?」
私の呼びかけに彼は答えない。
その代わりと言ったらなんだけど、少しずつ顔が近づいてきている気がする。
真夜中の公園で、二人きり。
おまわりさんが来たらさぞかし怪しまれるであろう組み合わせ。
このまま顔が近づいてきたら、間違いなくキスしちゃう。
って、ええええ?!
その考えに至って、私はアーチャーの言葉を理解した。
実感って、こういうこと?!
「アーチャー、あなたの言いたいことは理解したから、そこで止めて」
ドアップのアーチャーの表情が、少し変わる。
心底からかってるって感じの笑顔。
やな予感がする。
「それはどうかな?君はキスされるだけだと思っているのだろう?」
「えっ?」
満面の、笑み。
声に出したのは失敗だったと、悟る。
「キスだけならこんな体勢にはする必要が無いだろう?」
背筋に走る、冷たいもの。
からかったままでキスするって言うのは、ものすごく嫌。
なんでかは分からないけど。
「それ以上のことをするって脅してるの?こんなところで?」
「人目につくのが嫌なら、草陰にでも移動するかね?」
悪戯っぽいというレベルじゃない、邪悪な笑み。
本気で人の反応を見て楽しんでる。
「からかうなら他所でやって。時間がなくなるから、どいて」
良く分からないけど、イライラしてる。
さっきからアーチャーが遊んでるような、子ども扱いしているかのような雰囲気だからだろうか?
私の言葉を受けたアーチャーは、すっと真剣な表情になる。
「からかっていなければいいのか?」
それはいつもより数段低い声で。
感情を表しているなら、心底怒っているといった感じの声。
顔は笑みを浮かべていても、怒っている…親近感が沸くような…?
「な…本気なら良いなんて言ってないでしょう?!」
いつまで人を押し倒しているつもりなんだろう。
顔は相変わらずものすごく近い。
間近で見ると赤面しそうなくらいカッコいい顔をしていると思い知らされる。
そろそろ離さないと、赤面しちゃうかも。
「君は…」
アーチャーの顔が視界から逸れていく。
慌てて視線で追うと、彼は私の頬にキスをした。
「なっ?!」
それは、今までの動作から比べるととても素早いもので、私は視線だけで追うのが精一杯だった。
「いささか無防備すぎる。時々心配になるくらいだ」
今まで上に覆い被さる様にあったアーチャーの体が離れていく。
私の右手を引いて、私の体を起こす。
続く