9.声
衛宮士郎の家に電話をしてから、凛の様子がおかしかった。
アレが電話に出た直後、凛は本来ならばありえないことを口走っていた。
だから、聞かずにはいられなかった。
「凛、さっき電話をしていたようだが…アレが何か言ったのか?」
「え?な、何も…普通に出たわよ」
言葉を発する前の、微かな表情の変化。声に出た動揺。
「ならば何故、動揺している?」
「士郎は悪くないわよ。ただ私が勘違いしただけ」
開き直って、清清しいほどに言い切る凛。
勘違いと言う言葉が引っかかる。
「何でそんなことを気にするの?士郎に電話したことが気に入らなかった?」
「いや…少し、気になっただけだ」
正直な気持ちならば、気に入らない。
だが、それは今言うべき事ではない。
「勘違いと言ったが…何を勘違いしたんだ?」
記憶には残っていないあのときの状況を手繰り寄せようと努力する。
あの時自分が凛に対して何かを言ったのだろうか?
彼女が動揺するような…何か。
「違う人が出たと思ったのよ」
それでちょっと驚いていたのだと言う凛。
その言葉を聞いて、そんなことがあるものだろうかと考える。
あの家の中で『衛宮』として出るのは過去の自分…衛宮士郎だけだ。
桜や藤ねえは自分が家にいるときは電話には出ない。無論、セイバーも。
「誰と間違えた?」
「い、いいじゃない、そんなの」
あからさまな動揺。
思い当たった考えが正しいのだと確信した。
「あの家にはアレ以外の男はいない。君の側にいる人間の中で間違える可能性があるのは私だけではないのかね?」
驚愕に染まる凛の顔。
言葉を発しようとしているようだが、言葉は出てこない。
「なんでわかった?か。君は詰めが甘いからな、観察してよく考えれば分かることだ」
表情はいつものように無表情にしたままで、私は凛の疑問に答える。
「何でそんなに気にするのよ?まさか、士郎と間違われたのが嫌なの?」
やっとのことで言葉を発した凛は、焦ったかのような表情のまま。
凛の言葉は図星ではあったが、それは表情には出さない。
「嬉しいことではないな、あんな未熟者と間違われるとは…」
「そこまで士郎が嫌いなのね…」
実際には嫌いと言うレベルではないが、それは黙っておく。

続く