1.出会い

気になったのはたまたまだった。
天の座から降りて、地上を観察していた時に、たまたま彼がそこにいたから。
だから、私は気になった。
何度も降りてきた町だから、その建物が病院だと言うことは知っていた。
きっと、病院で治療を受けているのだろう。
屋上に出られるくらいだから、きっと怪我したとかそんなところなんじゃないか?
そんな風に思っていた。
だけど、そう思うのとは別に心の底で感じたことがあった。
確かにいるけれど、元気そうに見えるけれど…どこか曖昧な存在感。
もしかしたら、彼は…。
その思いを断ち切るために、私は思い切って声を掛けてみた。
消えそうに見えたなんて、目の錯覚なのだと信じたくて。

「こんにちは」
屋上のフェンスの上に座って、私は声をかけた。
この町は少し変わっている。
私たち、地上の人たちは天使と呼ぶ存在がいても怖がったりしない。
彼は空を見つめていた視線を泳がせて、声の方を見た。
私を見つけると微笑んでこんにちは、と返してくれた。
「天使が降りてきた」
とても嬉しそうに、彼はそうつぶやいた。
聞こえてはいたけれど、彼には聞えないふりをした。
だから、いつも思っていたことを聞いてみることにした。
「毎日空を眺めて退屈じゃないの?」
それは純粋な疑問だった。
私が地上を観察し始めてからほぼ毎日、彼は屋上で空を見上げていたのだ。
それも、何時間も。
「全然。楽しいよ」
彼は心の底からそう思っているようだった。
「僕にとって空は…届かないものだからね」
さっきまで浮かべていた笑みに、少しだけ混じった悲しみの色。
それが何を表しているのか…私には分からなかった。
話を変えなければ…
知りたくない本質に、たどり着いてしまいそうな気がした。
何でもいいから話を変えようと思い、友人から言われたことを思い出した。
「私はルカ。あなたは?」
天の座にいる友人に、地上では名を教えあうのが礼儀なのだと教わったので、私は自分の名を告げた。
彼は驚いたように目を見開いて、それからまた笑う。
「天使にも名前ってあるんだね」
「天使といっても、たくさんいるからね。私はまだまだ未熟な方よ」
天使というのが名前だと思っていたのか、彼は感心したように頷いていた。
続く