右手に剣を、左手にライオンを

それは、予想もしない質問だった。
事の発端は何気なく置いていた干支の置物だった。
今年の干支は猿。きっと、誰かが置いたんだろう。
「なぜ、ライオンはいないのですか?!」
それは、危機感すら感じるほどの必死な言葉。
「何故と聞かれても、日本起源の物じゃないから分からない」
下手な嘘なんてつけば剣の稽古は戦場になる。
セイバーも分からないと言うことがはっきりすれば引いてくれるだろう。
「しかし…トラはいるではありませんか!」
何とか切り抜けられるかと思ったが…駄目だったようだ。
「説明してください、納得がいく説明が無ければこの怒りは収まりません!」
すでに怒っていたのかと思いつつ、居間に誰か来ていないかと視線をめぐらす。
いつもなら誰かしら来る時間なのに誰も来ない。
セイバーの怒りに気づいてやって来ないのか?
何とか怒りを納めないと、身をもって怒りを納めることになる。
それだけは避けたい。
「ああ、確か発祥は中国だから、トラはいるけどライオンはいない国だし…そういう理由じゃないか?」
中国にライオンがいたらトラじゃなくライオンだったかもと諭してみる。
「怒りは収まりませんが…考えられた国にライオンがいないのならば仕方が無いことですね」
腑に落ちないという表情ながらも、一応は納得してくれたセイバー。
「何の話してたの?怒らせたみたいだけど」
客間の方から現れたのは遠坂。
登場が遅いが、セイバーは納得してくれたのでよしとする。
「干支の話だよ」
「干支?ああ、ライオンいないものね」
遠坂は俺の言葉にすぐに理解した。
さすが優等生。
「それで?士郎は納得の行く答えくれたの?」
興味津々と言う表情で、セイバーに問う。
「ええ、一応は」
セイバーは答えに興味があると受けたらしい。
だが、きっと興味があるのは…
「発祥の国にライオンがいなかったと説明してもらいました」
遠坂の意図に気づかず話すセイバー。
遠坂はセイバーから内容を聞くと悪魔のような笑みを浮かべて俺を見た。
何か企んでる。それも、凄くきついことを。
「ふーん…衛宮君、干支の昔話してあげなかったんだ?」
心臓がびくりと跳ねる。
それは意図的に話さなかったもの。
「話すほどのものじゃないだろ?」
セイバーに興味をもたれて聞かれたら…。
さっきの惨劇数分前に逆戻りする。
「なんですか、その昔話と言うのは?」
ああっ!!思った側から興味持ってるし!
このままでは惨劇が怒るのも時間の問題だ。
「セイバー、ちょっと早いけど昼にしよう」
立ち上がり、台所に向かおうとするとそこに現れたのは赤い弓兵。
「ちゃんと説明してやったらどうだ?それもマスターの勤めだろう」
絶対に邪魔しに現れたと思う。
睨んでみるが、涼しい顔で受け流される。なんか無性に悔しい。
続く