「そうよ、衛宮君?ちゃんと競争で負けたんだろうって言ってあげないと」
恐るべき赤のコンビネーション。
ここぞと言うときの連携の上手さは見習いたいとは思うが、意地悪な思考までは見習いたくない。
「シロウ、競争に負けたとはどういうことですか?」
赤い悪魔と使い魔をどうすればいいのかと考えていたら、セイバーは立ち上がり目の前まで迫ってきていた。
気のせいではない位に背筋が寒い。
「それはその…」
「その話を知っているのですね?」
「知っているような、知らないような…」
はぐらかしが聞くとは思えないが、一応やってみる。
「どっちなのですか?」
「その様子だと完全に知ってるわよね?」
セイバー一人なら切り抜けることも出来るかもしれないのに、余計なことを言う遠坂。
「遠坂、セイバーががっかるするだろう話をふってどうするのさ」
一言言わないと気がすまない。
「士郎、それ言ったらはぐらかしてたのばればれじゃない」
自分で振っておきながら苦笑する遠坂。
「ちゃんと話すつもりだ。実は、昔話であるんだ」
こうなったら話すしかない。
下手に隠せば余計に怒りが増すだけだ。
「聞きましょう」
セイバーは全てを受け入れると言いたげな表情でちゃぶ台の横に座る。
俺は諦めて全てを話すためにセイバーの正面に座る。
ちゃぶ台は横。何も挟まず向き合う状態だ。
それを見た遠坂はアーチャーを後ろに控えさせて、ちゃぶ台を挟んで向こう側に座る。
「いいか、話すぞ。昔まだ干支がない頃、神様が動物を集めて宴会を開くと言いました」
「宴会、ですか…」
興味津々なセイバー。
俺は小さく頷いて話を進める。
「宴会は二日後。先着で十二番目の動物までが招待されます」
「それで競争ですか…」
ライオンのことは置いておいて、素直に話を受け入れているらしい。
「猫と仲のよくないねずみは猫に違う日に変更になったと、別の日付を教えました。当日、先頭を歩いていたのは牛。
牛は神様から聞いたその直後から歩いてきていました」
「何故ですか?」
「牛は歩くのが遅いから、十二番以内に入るには誰よりも先に歩かないといけなかったんだ」
まるで近所の子供に話しているような気分になる。
「後から来たねずみは楽をしようと牛の頭に飛び乗りました。宴会当日、牛が到着するとねずみは頭から飛び降り、ちゃっかり一番になりました」
「ねずみは卑怯ですね」
そう言って眉間にしわを寄せるセイバー。
かなり感情移入しているらしい。
「その次に来たのが虎。兎、辰…竜、ドラゴンのことだな。それから…」
「ドラゴン?!ドラゴンですか?」
予想以上の食いつきを見せるセイバー。
「そうだけど…ドラゴンも好きなのか?」
「ええ、親近感が沸きます」
「そっか。で、話は猫が宴会に来れなかったってことで終わりだ」
「そうなのですか…ライオンが競争に負けたのは残念ですが、ドラゴンが入っているなら良しとしましょう」
続く