一応、コイツのマスターなんだし。
頭を冷やして欲しくて、わざと挑発するように言った。
私の真意に気づかないほど鈍感ではないはずだから分かったのだろう。
「それはお褒めの言葉と受け取っておこう。そういわれては待つしかあるまい?」
私の真意を理解して、いつも通りの皮肉げな笑みを浮かべるアーチャー。
でも私はその下の本当の表情が苦笑していることに気づいていた。
「話なら紅茶を飲みながらでも出来るわ。アーチャー、どうしてあなたは衛宮君をそこまで憎悪しているの?」
聞きたかったこと。
不自然なまでに衛宮君を憎悪している、その理由を知りたかった。
「…何故それを聞く?凛」
それは、アーチャーから見れば正しい疑問だろう。
「聞きたいから。この質問は衛宮君の質問でもあるし…ね」
ちょっとだけ、本心を隠す。
ただ、アイツのことで知らないことがあるのが嫌だったなんて…言えないから。
「それは…答えられない」
「答えられない?何で?」
予想外の答えに、私は再度聞き返す。
「その問いに答えると、私の真名にまで話が及んでしまう。契約ではそれらは詮索しないと言う条件になっていたはずだが」
淡々と告げるアーチャーの言葉に、私は幼い頃に聞いたコイツの契約条件を思い起こす。
「そういわれるとそんな契約内容だったような…?」
見たのは小学校に上がる前だったはず。
記憶が曖昧すぎて覚えていない。
「まさかこんなに早く当主になるとは思ってなかったから、記憶してないのよね…」
深く考えないで呟いた言葉。
でも、アーチャーの反応は違った。
「失言だったな…すまない」
「え?いいのよ、別に。私が理解不足だったんだもの。悪いのはこっちよ」
父さんの死は…まあ、言ってはなんだけど自業自得だと思う。
魔術の実験始めたらのめり込み過ぎて食事を忘れるなんて日常茶飯事だったし。
魔術師として一流で、紳士然として周りから尊敬されていた父さん。
だけど、悲しいかな遠坂には呪いともいえるくらいの先天的なドジの血があるから…。
父さんの場合は目の前に成功が見えてしまうと足元を見なくなることだった。
完成すると分かれば食事もしないで没頭してしまう。
困った…人でもあったのだ。
「その疑問については…俺も聞かないほうが良いのか?」
さすがに今度は当事者の一人なだけあって、会話に参加している。
「私がいなければ…ありなんじゃないかしら?なんなら席外そうか?」
物は試しでやってみるのも良いかもしれない。
まあ、何かが起きたときは居間がとんでもない状態になっていそうだけど。
「いい。それは遠慮しておく」
衛宮君の表情は少し強張っている。
二人きりなんかにされたらたまったもんじゃないのだろう。
まあ、私もそうしたいとは思わないけど。
「じゃあ、アーチャーはどうするの?理由が説明できないなら襲うなんていうのは許可できないけど」
「人を熊か何かみたいに言わないでもらえるかね…」
今度は本当に苦笑しているアーチャー。
どうやらここでどうにかしようという気は無かったらしい。
「もしかして始めから衛宮君を攻撃しようとか思っていなかったの?」
「当たり前だろう?私は騎士の礼まで忘れるほど愚かではないよ」
騎士、と言われて、私はそのことを思い出した。
そういえばコイツ、騎士なんだっけ。
「はじめさせてもらうつもりだったのは私と君との関係と私の自己紹介というべきものだな」
憎悪で前が見えなくなるほど子供じゃなかったらしい。


続く