「で、話と言うのは何かね?」
「心当たり無い?」
食事をしながら、私はアーチャーの問いに答える。
彼の作る食事は完全に私の好みの味に仕上げられていた。
「いや、有り過ぎてどれなのか見当がつかんだけだ」
いつもの表情でさらりと言ってのけるアーチャー。
心当たりがあるのなら、もう少し態度を改めて欲しいものである。
「そう。じゃあまずは衛宮君の前に突然現れた件からいこうかしら 」
衛宮君が一応魔術師の仲間に入る人物だから良かったものの…一般人に姿を見せるなんて以ての外だ。
「しかたあるまい?君からの情報では学校にサーヴァントが現れたとのことだったからな」
「衛宮君が召喚者ならすぐに知らせたわよ。知らせなかったのは…ちょっと拍子抜けな展開だったから」
そして、そのまま一緒に帰ってきてしまったのは私のミスなんだけど。
「まあ…あなたに何も伝えなかったのは私のミスね。だけど、わざわざ姿を現す必要は無かったと思うわ。違う?」
「君の言うとおりだ、凛。私の行動はうかつだったと認めよう」
あれ?やけにあっさりとしてる?
「だが…君があの小僧といることが私には耐え難い事だと、知っておいて欲しい」
「それって、嫉妬?」
違うだろうと思いつつも一応聞いてみる。
嫉妬だったら可愛いのにと思ったのだ。
「嫉妬では悪いかね?」
あっさりと肯定。
予想外の返事に、予想外のすねるような態度。
もしかして私、コイツに気に入られているのだろうか?
「君は小僧にはもったいないくらいの女性だ。側に寄らせるだけでもいい気分ではない」
誉められた…
急展開に、動揺して反応できなくなって、思わず赤面してしまった。
「サーヴァントにも嫉妬があるのね。それは…まあ、それで納得しといてあげるわ」
もしかしたら本当の理由を明かさないでいたいがための言葉かもしれない。
でも、アーチャーがそんなことを言ってまではぐらかしておきたい事なのならば、今は見逃してあげよう。
柄にも無くそんなことを思って、私は食事を再開した。
「私も一つ聞いて構わんかね?」
静かな表情でアーチャーはそう、切り出した。
「いいわよ。何?」
聞きたいことの想像はつかなかったけど、変な事は言い出さない気がしたので頷いた。
「何故…小僧を気にする?君は小僧に何を思っているんだ?」
気にしているのはアーチャーだと思う、と言う言葉は飲み込んだ。
「そうね…昔の話よ」
敢えて言葉に突っ込んだりせずに、私は衛宮君との出会いを語って聞かせた。
「その時は気になる理由が分からなかったけど…高校で出会って、そいつだって分かったときに理解したのよ」
「理解?」
「そう。今まで他人の事は気にしたこと無かったんだけど…気になっていたみたいね。特別なところまではいかないけれど」
でも今は完全に気持ちを閉じている。
だって、彼は桜の思い人だから。
そんな私の独白じみた話を聞いていたアーチャーは深刻そうな表情で黙り込んだ。
まあ、心底嫌っている相手をマスターが嫌いではないと言う事実は、彼にとっては重大なことだろう。
「それは…君が小僧を好きだと言うことかね?」
「好意は認めるわ。恋愛感情は無いけど」
素直な気持ちを口にした。
今気になるといういうのなら、衛宮君じゃなくて…
「あなたの方が今は気になるかしら。色々な意味で」
少し慌てさせてみたくて、悪戯っぽく言ってみた。
結果は…思ったものではなかったけど。
「そうか、それを聞いて安心した。君が私を気にしてくれるということはとても光栄なことだよ」
そう呟いたアーチャーの表情はとても穏やかで、私はあまりの衝撃に言葉を失ってしまった。
赤面している顔を背けて、そう、と呟くことしかできなかった。
結局、他に聞きたいことは聞けないままに夕食は終わり、私はアーチャーと分かれて自室に戻ったのだった。

続く