朝から酷い目にあった。
まあ、これに関してはお互い様なのでこれ以上は聞かないし、言わない。
遅めの朝食を済ませて、紅茶で一息。
アーチャーも紅茶は好きらしくよく一緒に飲んでいる。
「ねえアーチャー」
私は昨日の続きを切り出すことにした。
「何かね?茶菓子でもご所望か?」
「違うわよ。昨日の続きなんだけど…」
「ふむ…何かね?」
わざとらしく考えた振りをしてみせるアーチャー。
「分かってるでしょ?家事のことよ」
当年の懸念である、サーヴァントが家事をしてあまつそのままの格好でゴミ捨てに行ってしまうという緊急事態。
早く手を打たないと、ご近所の奥様方からあらぬ噂を立てられてしまう。
これからも長い付き合いを維持するであろう近所の方々に姿をさらし続けるのはよくない。
サーヴァントは年を取らない。
五年くらいなら誤魔化すこともできるかもしれないが、十年二十年と経つ内に年を取らない存在だとばれたら言い訳も出来ない。
「何度も言うが、私はこれを趣味のような感覚でやっている。君も何だかんだと言いながら満足しているように見えるのだが…?」
「料理の腕も、掃除の完璧さも認めるわ。だけど、あなたは人の従者ではないの。それを忘れてもらっては困るわ」
「君の言いたいことは分かるよ。だが…今の現状から考えるのならば、何時いかなる時も君の側に実体化していられる方がいい。
その為には普段から姿を見せている方が都合がいいだろう?」
なんか、もっともらしく聞える切り返しが来た。
「それならなおさらよ。私は魔術師だって周りに知られたくないの。知られることによって被害が広がらないとも限らないんだから」
杞憂だと言われたらそれまで。
でも、魔術師はそれ位慎重に行動しなければならないのだ。
私の言いたいことを理解したのか、表情を真面目なものにして見つめるアーチャー。
不思議な目の色だと思う。
まるで心の中を見透かせるかのような、凍れる月の様な色。
「私はね、相手が魔術師なら自分の身を守れるくらいの力も実力もあるの。
サーヴァントが出て来たら勝てないけれど、その時は真夜中とかで人はほとんどいないから…」
戦うために呼ばれた彼が、家事という趣味をこなしたい気持ちは分かる。
召喚された意味がそうだとしても、人間的な部分を捨てることは出来ないだろうから。
「だからね、アーチャー。私は家の中の家事をするなとは言わないわ。ただ、姿をさらさないように注意して」
考えて、考えた挙句の答え。
考えれば考えるほど、彼の立場に立って思いを馳せるほど…
人間味あふれる彼の趣味を咎めて止めることは出来ないと思ってしまった。
私の負けだ。
「…了解した、マスター。許可をくれて感謝している」
いつもの皮肉げな笑いではなくて、心からの笑みを見た気がした。
懸念していた考えも落ち着いたし、頑張って街の平和を保たないと。
もうすぐサーヴァントの数がアーチャーを抜かして七騎揃う頃だ。
聖杯が顕現する条件まであと少し。
聖杯を悪意ある者に渡さないためにも、管理者として戦わないといけない。
その前に、学校でのアーチャー目撃情報による追求を交わすことの方が先なんだけど。
まだまだ問題は山積みだなぁ…

続く