私は状況を確実に見極めた後に呟いた。
間違いない、これは…
「学校に現れるといった生易しいものではないようだな」
多分すぐ隣りに居るであろうアーチャーも、予想外の展開に戸惑っているようだ。
「まさか、こんなことするマスターが居るなんてね…」
世も末である。
正しくは世紀始めなので末ではないんだけど。
「今すぐにどうというようなものではないようだな」
「それが救いね…そういう類のものだったら爆発事故でも起こして全生徒避難させなきゃ」
「…物騒な発言は控えたまえ、凛」
私の言葉に、ただならぬものを感じたらしいアーチャーは表情は見えないけれど、きっと無表情に言っているのだろう。
笑って流してくれて良かったんだけど、本気にでも取ったのだろうか?
後で問い詰めてやらねば。
「まあ、とにかく教室に向かうわね」
小声で言うと、気配が揺らいだ…気がする。
多分、アーチャーが頷いたんだろう。
しっかし、コレに衛宮君は気づいているんだろうか?

教室についても、私の緊張は解けなかった。
学校に張り巡らされた、気味の悪い結界のことも気になる。
でも、気が抜けない状態だったのはそのせいでは無かった。
「ねえ、遠坂さん、こないだの男の人って誰?」
「父の知り合いなの。たまたまこっちに来ていたから、寄ってくれたみたい」
この会話に、私の神経は全て注がれていた。
通り過ぎる女子生徒にことごとく聞かれて、私は疲れていたのだ。
それでも教室に入って授業が始まればさすがに聞いては来ないので安心したけど。
見えないから分からないのが癪だけど、きっとアーチャーは面白がって見ていたに違いない。
私が優等生の皮を被ったままで、内心は優雅とは言いがたい精神状態なのを…きっと、楽しんでいたのだと思う。
授業中、ふと気配が遠ざかる時があったが、それは結界の状態を見極めたりしていたから。
言われなくともそのくらいはやってくれるのだ。
だから、癪だけど楽しんでいたことは不問にしてやろう。
もう一つ何かあったら合わせて追求するけど。
午前中の授業が全て終わり、私はいつもの場所へと向かった。

ついたのはいつも昼食を食べている屋上。
「凛、君はこの寒い中でも屋上に居るのかね?」
「寒いからよ。ここなら誰も来ないし」
寒さよりも、人気の無さの方が私には重要なのだ。
「今日は特に寒いから、誰も来ないわよ。アーチャー、姿を見せて大丈夫よ」
私の言葉に、実体化するアーチャー。
「凛、せめて風を避ける場所に移動したまえ」
そう言いつつも、アーチャーは風除けになるように、私の横に座った。
「気づいてる?ここに起点があるの」
「ああ。あちらこちらに魔力があるせいか気が落ち着かんというのが本当のところだな」
「仕方ないわよ。放課後にならないと何も出来ないわ」
そんな他愛も無い会話をして、昼食は終了。
学生の本分である勉強を眠気をこらえてこなし、待ちに待った放課後になった。
いや、待ちたいわけじゃないんだけど。
校舎内に生徒が少なくなる頃合を見計らって、手早く行動する。
下の階から順番に、屋上に向かってあちらこちらにある起点を消していく。
実際には私には取り消せないものだから、魔力を消すだけなんだけど。
「趣味が悪いわ…なんかこの学校に恨みでもあるのかしら?」
「そういうものではないんじゃないのか?確かにこれは趣味が悪いが…」


続く