屋上にある起点を見ながら、しみじみと呟く私たち。
「ま、見ていても消えるもんじゃないから、魔力を消しておきましょうか」
魔術刻印のある腕を出し、起点に手をかざす。
起点に流れている魔力の流れを消して、終了。
「作った本人が魔力通したらあっさりと元に戻っちゃうんだけどね」
性質が嫌悪を抱くような結界なんだけど、コレばかりはどうしようもない。
術者を見つけ出して消させない限りはどうこうできるものではないだろう。
「なんだ、消しちまうのか」
応急処置を終えて、気が緩んでいたのは本当のことだ。
突然の声にはっとして声の方を見上げる。
見上げた先には青い、人型。
禍々しい赤い槍を手にした、青い死神の姿だった。
「お嬢ちゃん、魔術師か?」
「そういうあなたはサーヴァントね?」
緊張感の無い物言いながらも、彼からは殺気が放たれている。
「マスターに言われてきてみたが…楽しめそうだな」
ここ…屋上では不利だ。
相手が槍のサーヴァントなら尚更。
かと言って、校内に入るのは良いとは思えない。
だとしたら…ここは下しかない。
「お嬢ちゃんのお手並み拝見と行こうか!」
槍と共に私に向かって突っ込んで来るランサー。
スピードでは絶対に勝てない。
屋上のフェンスに駆け寄り、背筋に走った嫌な予感に身をよじった。
がしゃんと音を立てて、フェンスに穴が開いた。
どう考えても槍の開けた穴じゃない。
あんなものに穿たれたら即死だ。
避けると同時に真っ直ぐに走る。
今度は間髪入れずに屋上の角に近づくと同時に魔術でフェンスを飛び越える。
「アーチャー!着地任せた!」
私の魔術では着地は心許ない。
確実に逃げるならばアーチャーに任せた方がいい。
地面にぶつかるすれすれで体が浮く。
私は階段一段分から飛び降りたくらいの形で地面に降り立った。
「凛!」
降り立ってすぐ、アーチャーに庇われたのが分かった。
鈍い、金属同士がぶつかり合う音が響く。
見ればランサーはとうに地面に到達し、アーチャーと対峙していた。
さすが最速のサーヴァント。
計算ではもう少し間隔があると思っていたけれど…。
にしても、アーチャーが持っているのは双剣。
実際に戦闘になったことはあったけれど、そのいずれも彼は弓で敵を射ていた。
双剣を持っている姿は初めてだ。
「てめえ何者だ?セイバーって感じじゃねえよな?」
やはりランサーにとってもその姿は不思議だったようだ。
「私か?クラスのことを言っているのならばこの身はアーチャーだと告げよう」
アーチャーの答えに眉を顰めるランサー。
その反応は正しいと思う。
接近戦をするアーチャーなんて聞いたこと無い。
「弓兵風情が…剣を手にしたアーチャーなど聞いたこと無いぞ?」
「なに、コレでなかなか捨てたものではないぞ?」


続く