彼に与えられた仕事は霊地の管理・監視・私たちを含む土地に至るまでの全ての護衛。
それを、彼は代々の当主との契約によってこなしてきたはずなのだ。
普通なら契約の範囲外のことはやろうとはしない。
何故彼が範囲外のことまでやろうとするのか?
私が逆に理解できないのだ。
「まあ、この話は学校から帰ってきてからゆっくりするわ。遅刻するから行くわね」
「朝食を取りたまえ。頭が働かないぞ」
「遅刻するからいいわよ」
「ならば、これだけでも口に入れたまえ」
半ば強引に口の中に入れられたのは卵焼き。
出汁まきじゃなくて、甘い卵焼きだった。
「糖分を朝取らなければ頭が働かないからな。それだけでも食べるだけで違ってくる」
少し満足げな彼は、日本人らしくは無い容姿で上手に箸を扱う。
悔しいことに彼は私よりも和食を上手に作るのだ。
それが長い従者としての契約の為に養われたものなのか、元から持っていた技能なのかは分からないけど。
「…行って来るわ」
飲み干して、私は椅子に乗せてあった鞄を取った。
「気をつけてな。学校まで着いて行ってもいいが、辞めておくよ」
「そうしてくれると助かるわ。家のこと、お願いね」
「了解した」
家のことが家事を指していないって事、分かってるんだろうか?
やや不安は残るものの、遅刻するといけないので私は家を出て学校へと向かった。
続く