好きの意味が違うのだ、私たちは。
特別に思ってくれるのもきっと父親の心境だから。
愛はあっても恋はない。
それが今の私たちだと思う。
こっちが一方的に思ってるっていうのが…もどかしいんだけど。
「ふーん?嬢ちゃんはまんざらでもないように見えたんだけどな」
アーチャーの視線を簡単にスルーして、ランサーは私の顔を覗き見た。
私は感情を隠すのがあまり上手くない。
「そ、そんなことないわよ?サーヴァントはサーヴァントだもの」
動揺して顔が赤くなりそうなのを抑える。
顔を背けようとしても横にはアーチャーがいる。
こんなところで自滅して気持ちを知られるわけには行かない。
もしかしたら、今までのように触れてはくれなくなるかもしれないから。
思ってくれなくたって、一番近くにいられる今の状態でいられればいいから。
思ってくれたら嬉しい。でも、それは許されないから。
「ま、お嬢ちゃんがそういうならそうなんだろうけどな」
ふいと視線をアーチャーに移して、笑う。
「そうやってむきになって怒ったりすると案外本気だって気がするぜ?」
ランサーはからかいの対象をアーチャーに定めたらしく、実に楽しそうな笑みを浮かべていた。
「それではなにか?貴様はマスターに惚れたことがあると、そういうのだな?」
引きずられたくない内容だったのか、アーチャーは苦々しそうな表情で切り返す。
「ああ、あるぜ。マスターだろうが仕えた姫君だろうが、美人ならな」
あまりにも素直な告白だったので驚いた。
「それじゃああなた、私がマスターなら惚れたって言うこと?」
「まあ、そうだな。嬢ちゃん度胸はあるし強気そうだし、顔も良いしな。あえて言うなら後数年待ちたいくらいだけどな」
ああ、コイツ召喚してくれなくて良かった。
アーチャーを召喚してくれた先祖に感謝。
「そうか…ならば悪いことは言わん、今すぐ立ち去れ」
ゆらり、と怒りのオーラを発するアーチャー。
「待て、目撃者探しを一緒にやる約束だろ?」
「知ったことか。逃げられたのは貴様のミスだろう?私や凛が一緒に追う必要はない」
実際に戦闘は見られてしまったけれど、私もアーチャーも姿は見られていない。
唯一姿を見られたランサーは、仕留め損なって危機的な状況にいる。
「それにしても、変な話よね」
ランサーから事の顛末を聞いた私は、その目撃者…部外者である少年が突風と共に消え去ったというのが信じられなかった。
「もしかして…学校に物騒な結界張った張本人だったりして」
消える、なんて芸当をしてのけたのなら、魔術師である可能性も否めないのだ。
「凛、それは…」
私の考えていることを先読みして、アーチャーが口を開いた。
「ええ。どっちにしろ、私たちは無関係ではいられないのよ。冬木の管理者なんだから」
ランサーは失態を隠蔽してマスターの元に戻るために。
私たちは冬木の管理者として、冬木を守るために。
消えた目撃者を探すことになった。

「で、ランサー。そいつの特徴は分かる?」
実際に対面したのはランサー一人。
私が顔を見ていれば探すのは簡単だけど、見ていないのだからランサーの記憶に頼るしかない。
「んーと…髪は…まあ、短髪ではなかったな。で、ウエーブがかかってる感じだった」
ランサーは闇夜の廊下で対面した目撃者の特徴を思い出しながら話す。
聞き漏らさないように私はメモをしながら、学校にいる人物の特徴を思い浮かべていた。
「優男って言うのはああいうのだろうな。あまり度胸はなさそうだった」
優男?髪の毛にウエーブ?


続く