『桜!いるんだろう?!』
それは思ってもいない声であり、思わぬ朗報をもたらした声だった。
「アーチャー、出るわよ」
「今電話中だろう?」
「いたのよ、電話の向こうに慎二が」
「まさか…小僧の家にいたというのか?」
驚きを隠せないアーチャー。
そりゃあそうだろう、私だって驚いてるんだから。
受話器の向こうでは電話に出るためにやってきた桜が慎二に捕まってしまったらしい音がしている。
一刻の猶予も無い。
私は電話を切ると、アーチャーとランサーを連れて衛宮君の家に向かった。
普通に走れば時間がかかる。
ここは…
「凛、一番早いと思われる方法で行くが、いいかね」
「ええ、お願い」
そう頷くとアーチャーは私を抱えて屋根の上を疾走し始めた。
まあ、そうだよね。
私が強化して走るより、早いもんね。
自分にそう言い聞かせて、アーチャーに委ねるしかなかった。

アーチャーに抱えられての移動は実に早かった。
怒鳴り込んで暴れている慎二を現行犯で捕まえることも出来たからだ。
突然やってきた私に慎二は驚いていたが、後ろに控えていたランサーを見て怯えだしたので確かめるまでも無く確信した。
「悪いけど、慎二。掟だから」
死んで、とは口にしなかった。
慎二だって一応はそういう家系に生まれた人間である。
魔術を扱うことの出来ない一般人が、見てはいけないものを見たらどうなるのか。
いかに彼であってもわかっているはずだ。
なのに。
「ライダー、あいつらを倒せ!命令だ!」
事もあろうに一番やってはいけない方法で対抗しようとした。
「馬鹿慎二。警告したのにそういうことするから寿命が縮むのよ」
笑うこともせず、私は本気の怒りを口にした。
青ざめる慎二。
「って事は、俺が何しても良いって事だよな、嬢ちゃん」
慎二を消すためにやってきたランサーはあの夜の殺気を放っていた。
一気に緊張が高まる衛宮君ちの玄関。
「その前に場所を変えて。ここじゃ衛宮君に迷惑だもの」
それに、桜から離れないと。
「そんなことになってたまるか、ライダー来い!」
一応は姿を現したライダー。
「ん?ボウズはマスターなのか?」
ライダーの出現に面白そうな声を上げるランサー。
対照的に静かなアーチャーは、多分目の前に衛宮君がいるからだろう。
「倒せ、お前、強いって言っただろ!」
「桜」
私は桜に声をかけた。
衛宮君の後ろに控えていた桜は頷くとライダーを見据えて一言、告げた。
「その命令は無効です」
怒りの形相で桜を見る慎二。
「お前、家に置いてやってるんだぞ、俺の言うことに従ってればいいんだよ」
完全なるご乱心である。


続く