「慎二、勘違いしないでよね。桜はアンタのうちに頼まれて居てやってるの。今すぐにでも帰ってきてもらって構わないのよ?」
絶対零度の微笑で、言ってやった。
我慢にだって限界ってもんがある。
「令呪持たない一般人が、サーヴァント従えようなんて考えが甘いのよ。ライダー、あなたも桜の命令だけ聞いてればいいから」
答えは期待していなかった。
「ええ、言われなくともそのつもりです」
だから、答えが返ってきたのは少し驚いた。
「まあ、そういうことだ。観念しなボウズ」
最後の勧告。
後はランサーが手にした槍で胸を突けば終わる。
だというのに、思わぬ邪魔者がそこにいた。
「衛宮君、何のつもり?」
「今の会話じゃ慎二を殺そうとしてるように聞えたんだが…そうなのか、遠坂」
どこまでお人よしなんだろう、コイツは。
「衛宮君も魔術師の端くれなら、目撃者は消すっていう暗黙の了解を知っているわよね?」
慎二とランサーの間に立ち、邪魔をするようにしている衛宮君。
「正義の味方の真似事もいいけど、度が過ぎると命落とすわよ」
私の鋭い言葉に反応したのは桜だった。
「だ、ダメです姉さんっ」
桜は私に駆け寄り、悲しげな表情で懇願する。
衛宮君は桜の思い人。
出来れば私だってこんなことは言いたくは無い。
だが。
「今なら衛宮君の行為は不問にしてあげるわ。だけどね、これ以上邪魔するなら冬木の管理者として判断を下さないといけない」
「じゃあ、俺がやってもいいんだな?」
対峙していたランサーが声を上げる。
彼にとっては人間の一人や二人、殺すことなど造作も無いのだろう。
「俺は…慎二の友人だ。殺されるのを黙って見過ごすことは出来ない」
背後に広がる殺気はアーチャーのもの。
「エミヤシロウ、その考えが綺麗事に過ぎぬと気づかんのか」
無表情なアーチャーの発した言葉に反応する衛宮君。
「分からんのなら、私が直々に手を下してやろう。理想を抱いて溺死しろ」
今までの殺気とは比べ物にならない殺気が生まれた。
いや、これは多分殺気じゃなくて、殺意だ。それも凶悪なまでの。
この状態では私に止めきることは出来そうにない。
「桜、悪いけどライダーに命じてくれる?」
守護を抜いた私の言葉に、頷く桜。
「ライダー、先輩を守って!」
でも、それは無謀な賭けだった。
アーチャーはともかく、戦闘モードのランサーが衛宮君を襲ったら止めきれないだろう。
あの槍は危険すぎる。
人間相手に宝具を使う事は無いだろうが、もしもということもある。
何とか慎二だけを狙う方法を…
そこで思考は停止した。
目の前で繰り広げられるサーヴァント三対の戦い。
守りながらじゃライダーの分が悪いのは目に見えていた。
なにか、もう一つ…
そう、守り手のサーヴァントがもう一体いてくれたら…
ありえないであろう考えをして、自分で打ち消した。
とにかく、アーチャーだけでも止めないと。
「アーチャー、命令よ!下がりなさい!」
低めの声で叫び、アーチャーを止める。


続く