後ろから驚くようなアーチャーの声がしたけれど、無視。
今はアーチャーの感傷に左右されている場合じゃない。
「なんですか、アーチャーのマスター。邪魔をする気ですか」
「邪魔と言うよりかは、先に済ませておきたい案件があるの」
「なんですか、それは」
少しだけ殺気が納まるセイバー。
微かに感じるピリピリという感覚はなんなのだろう?
「ランサーが狙ってるのはそっちの間桐慎二よ。あなたのマスターはね、あいつを助けるためにランサーに立ち向かったの。無謀だけど」
召喚される前の状況を説明する。
こんなところで戦闘なんぞ始めたら、とんでもないことになる。
確実に衛宮君ちが壊れる。
「それが、成り行きと言うことですか?」
「まあ、そういうことになるわよね。一人前の魔術師だってサーヴァント相手に立ち向かったりしないわよ」
桜の命令で助けるために動いてくれたライダーだけど、二人を同時に守るのは難しい。
もっとも、ライダーが慎二を見捨てていればそんなことは無かったんだろうけど。
どういうことなのかは分からない。だけど…
ライダーは桜の為に慎二を守らなくてはいけない状態にあるようなのだ。
セイバーを見れば、彼女は衛宮君の行動に呆れたらしく、困惑した表情で衛宮君を見つめている。
桜はセイバーの登場で落ち着かないし。
ランサーは逃げようとしている慎二の襟首を捕まえて、話が終わるのを待っている。
「アーチャーのマスター、発言してもよろしいでしょうか」
この先の事を考えていた私に、ライダーが話しかけてきた。
「いいわよ、断りなんていらないから好きなだけ話してみて」
私は正規のマスターで、サーヴァントはサーヴァントだと考えているけれど…
だからといって、人格とかそういうものは否定しないしむしろ尊重する。
「ありがとうございます。実は、シンジのことなのですが」
「いい策でもあるの?」
「はい。現在シンジはサクラから貰い受けた令呪を一つ持っています。それを放棄させて言峰教会に連れて行ってはどうでしょうか?」
そうすれば、ランサーが目撃者を消すと言う行動も慎二がマスターであると言うことにすればうやむやの状態に出来る。
ここでサーヴァントたちをぶつけ合うことも無いだろう。
私の目的は聖杯を悪しきマスターに渡さないこと。
正しい運用がされることを見届けること。
聖杯戦争をしたいわけではないから、ライダーの提案は丁度いい案なんだけど…
「ランサー、今の案どう?受け入れられる?」
問題はランサー。
彼がその提案を呑んでくれないと、話がまとまらない。
横目で見ればセイバーは衛宮君を淡々と説教してるし、桜はその横で困ってるし。
アーチャーは…うわ、無表情だ。
「んん?おれならいいぜ。このボウズがマスターだったって言うんなら、目撃者がいたってことにはならないしな。それに教会に連れて行くんだろ?」
「ええ、そういうことになるわ。令呪の放棄をすれば、マスターではなくなるから桜たちも安心だし」
何とかまとまりそう。
ランサーが物分りのいい性格をしていて良かった。
「衛宮君、セイバー、桜、慎二は令呪を放棄して教会で匿ってもらう事になったわ。異存ないわね?」
後ろの方で慎二が何か喚いているけれど、無視。
セイバーにはランサーが衛宮君を狙うことは無いと言い聞かせて、納得させた。
…まあ、アーチャーが本気で狙っていることは伝えておいた方がいいのか迷うんだけど。
「話はまとまったか?嬢ちゃん」
「ええ。さっきの案でいくわ」
「なら、コゾウはこのまま連れて行くのか?」
こくりと頷き、ライダーを見る。
「ライダー、あなたはついてくるわよね?あとアーチャー」
一応仮にも令呪を持っている以上はマスターなので、ライダーに問う。
ライダーは勿論と返して頷いた。
続く