「綺礼、いるんでしょう?」
特に来る人なんていないんだから、暇してるんだろう。
綺礼は私が声をかけてすぐに現れた。
「何の用だ、凛。礼拝堂で大声など出すものではないぞ」
「マスター登録とマスター登録の抹消…じゃ無いか、登録の変更お願い」
「それはそこの少年のことかね、凛」
言峰綺礼…どう見ても万人受けしなさそうな神父が、聖杯戦争の監視役。
綺礼は衛宮君を見て、ふむと呟いた。
「彼もそうだけど、その前にコイツの登録を変えて欲しいの」
私の言葉にアーチャーが慎二を前に出す。
慎二は果敢にも綺礼を睨みつけて…綺礼に睨み返されて終わった。
「僕はマスターをやめないからな」
「何言ってるのよ、正規のマスターでもないのに」
いかに魔道の名門だったとはいえ、ここまで来ると往生際が悪いとか言う問題じゃない。
「間桐慎二。コイツを匿っておいて欲しいの。正しく言うのなら、教会に監禁しといて、聖杯戦争が終わるまで」
慎二に話させておくと話が進まないから、無視して話を進める。
それについては他三名も異存はないらしい。
まあ、もとよりアーチャーに異存なんてないんだろうけど。
「まあ、匿うのは良いが…間桐ということは聖杯戦争の参加者ではないのか?」
「コイツは違うわ。間桐のマスターは桜だもの。コイツはね、力にもの言わせて桜から令呪を一つ奪ったのよ」
正規のマスターではない慎二には刻まれた令呪は存在しない。
その代わり、令呪を本の形にして持っている。
「なるほど。本来ならば後継者であるその少年には魔術回路は皆無のようだからな」
綺礼は全てを話さなくても勝手に理解してくれる。
まあ、その代わり毒舌は三倍以上で返してくるけど。
「令呪を放棄させて匿っておけばいいのだな?少年はそうは思っていないようだが」
いまだ抵抗している慎二を見つめて、綺礼は問う。
「良いも悪いもないわよ。匿ってもらわなければ殺されるだけだし」
教会にいるという条件でランサーは慎二を諦めたのだ。
教会で令呪を放棄すれば正規のマスターではないとはいえ、マスターであったと記録される。
そうすればただの目撃者ではなくマスターということになって、そのまま続ければ殺されるけど放棄すれば命は助かる、ということなんだけど。
いまだに拒否してるこいつは…馬鹿だ。
「慎二、諦めなさいよ。あなた魔術師じゃないんだから」
止めを刺すように、私は告げた。
魔術師面されるのは迷惑よ、と付け足して。
傍で見ていた衛宮君が小さくリアクションしたのが見えたけど、それは見ない振り。
綺礼は私の物言いに口を歪めてるし…
「なんにせよ、君はマスターとしては生きてはいけまい。ここで放棄した方が幸せというものだろう」
綺礼にしては珍しく優しい言葉。
マスター続けたら命は無いよって言ってるのはこの際、気にしないでおく。
「死にはしないさ、勝てばいいんだろう?僕なら勝てるさ!」
慎二の言葉に、さすがにぶちっと来た。
遠坂の後継者である私に、聖杯戦争中は家でじっとしてろと暴言を吐いたアーチャーに向けた怒りに似ている。
そうよ、父さんの遺言で私のサーヴァントになる時、コイツは失礼なこと言ったんだった。
「勝てるわけ無いでしょう!馬鹿じゃないの、魔力の供給も出来ない一般人が、何言ってるのよ!」
ライダーに注がれている魔力は桜のもの。
繋がってもいない、もとより魔術回路の無い慎二にはライダーにあげられるだけの魔力は無い。
あったとしても根こそぎ持っていかれて昏倒したまま聖杯戦争は終わるだろう。
「それなら何か、衛宮ならやっていけるっていうのか?!」
どうしてそこに出てくるのかは分からないけれど、私は当然だと頷いた。
「アンタと違って衛宮君は魔術回路があるもの。見習いレベルだけど、全く無いアンタよりはましよ?」
魔術を知識だけで知っているレベルと回路を持つレベルでは比べ物にならない。
もっとも、衛宮君の魔術回路では魔術師と名乗れるレベルに達することが出来るのかは疑問だけど。

続く