「凛。どの道少年はここで預かることになるのだろう、次の話に移るぞ」
慎二を預かって言葉攻めにする気満々の綺礼。
連れて来ておいてなんだけど、ご愁傷様。
付き合いの長い私ですら聞きたくない綺礼の言葉を、長く聞くのはさすがに同情する。
「少年、名はなんと言う?」
「衛宮士郎だ」
人の返事も聞かないで、綺礼は衛宮君に話しかける。
衛宮君は綺礼の人となりをなんとなく感じ取っているのか、表情は硬い。
いつの間にか慎二はアーチャーから離れ、ライダーに八つ当たりをしていた。
アーチャーは私の隣で衛宮君と綺礼のやり取りを眺めている。
眺めているというには御幣のある表情なんだけど。
「遠坂が聖杯戦争とかそのシステムについてはあんたに聞けって言ってたけど」
「…凛」
「ほとんど知らないわ。さっきの話の通りに魔術師とは言いがたいけど、見習いって所だから…偶然でマスターになったんだと思うの。説明してあげて」
今まで見たことが無いような表情で衛宮君を見つめる綺礼。
よかろう、と短く頷いて説明すること二十分。
「これであらかた説明したと思うが…一つ質問がある」
「なんだよ」
「聖杯戦争がなんであるか、分かっただろう?その上で聞く。マスターとして参加するか否か」
ここが教会で、話した相手が監視役の神父であるのならば。
それは当然の問い。
「俺は聖杯には興味が無い」
「ならば、マスターを降りるか」
衛宮君にとっては意味のない戦いだろう。
マスターになったのも偶然、聖杯にも興味が無い。
それならばマスターを続けているメリットが無い。
なのに。
綺礼は衛宮君にとんでもないことを言った。
「最近の事件のことは知っているかね」
「新都とかで起きてる事件か?」
衛宮君は何故そんなことを聞くのだと言いたげな表情で答えた。
慎二の時にも思ったけれど、衛宮君は相当なお人よしだ。
この先の綺礼の発言で、もしかしたら…衛宮君はマスターを続けるかもしれない。
「そうだ。その事件がただの事件だとは思っていないだろうな?」
「ただのって、まさか」
綺礼の言葉の先を読んで、衛宮君は言葉を切った。
「そのまさかだ。連日の昏倒事件はほぼ聖杯戦争がらみといっていいだろう」
神父のくせに悪魔のように笑う綺礼。
気のせいかも知れないけれど、綺礼は衛宮君をマスターにしたいのかもしれない。
漠然としたもので確証なんて無いけど、何故かそう思った。
「関係ない人が被害にあうなんて間違ってる。それが本当なら俺は…」
「マスターを続ける、か?まるで正義の味方気取りだな」
正義の味方。
その言葉に反応する衛宮君とアーチャー。
「悪いのかよ」
衛宮君のその思いは純粋に助けたいとか、そういったものなんだろう。
だけど、性悪神父にはそんな思いは通じない。
聖職者のくせに、救いとかそういう類の単語が似合わないのはいかがなものなんだろう。
「いや?むしろ逆だな」
楽しいおもちゃを見つけた、そんな邪悪な笑みを浮かべる綺礼。
「喜べ、少年。願いは叶う」
続く