正直、言われた本人の衛宮君も戸惑うくらいに分からない言葉を綺礼は口にした。
ただ一人、言葉に反応して険しい表情を浮かべたアーチャーは別だけど。
「聖杯戦争という、他者の犠牲が必要になる戦いは衛宮士郎の願いをかなえる。何故だか判らないか?」
なんとなく、予想がついた。
わからなのは衛宮君。
「正義の味方とは常に誰かの命が脅かされている時に現れるもの。
平穏な世界に正義の味方はいない。正義の味方とは…誰かの危機があって初めて存在できるものだからな」
綺礼の言葉に絶句する衛宮君。
正義の味方は悪者がいなければ成立しない。
それは、悪者によって危機にさらされる誰かがいる状態でなければならないということだ。
「だから、喜べ衛宮士郎。聖杯戦争によって被害が出る限り、願いは叶う」
誰かの危機がなければ正義の味方は存在できず。
正義の味方になろうと思うのならば、危機に瀕する誰かを望まなければならないという矛盾。
誰かを救いたいという願いが、誰かの危機を望むことになる矛盾。
苦悩の表情を浮かべる衛宮君に対して、どこか遠い目をしているアーチャー。
「それでも…俺は誰かが傷つくのを見捨てることは出来ない」
それは、苦悩しながらも貫かなければならないものだったのだろう。
人を救いたいと思う気持ちを、綺礼にそう表現されても。
それは、きっと衛宮君にとっては大切なこと。
その後の衛宮君は綺礼の辛辣な発言にも引かずに対していた。
「いいだろう。マスターとして登録をしよう。で、召喚したサーヴァントのクラスは何かね」
「セイバーよ。桜はライダー。さっきまでランサーも居たんだけど、どっか行ったわ」
これで四騎。
出会っていないサーヴァントはアサシン・キャスター・バーサーカーの三騎のみ。
数は揃ったから、聖杯を求めて活動を開始するだろう。
ここから気合を入れないといけない。
私は聖杯を欲しているというよりは、管理者として義務的に聖杯を守らないといけないんだけど。
他のマスターは違う。
叶えたい願いの為に欲している。
土地を管理してるんだから、聖杯の管理も当然しなければならないとかいう遺言の為にマスターをしている私とは気合が違うだろう。
ま、負ける気は全然無いんだけど。
「衛宮君、本当にいいの?」
「ああ、もう決めたんだ。聖杯戦争のマスターの中に関係ない人を襲う奴がいる以上、俺は戦う」
教会を出る前に、もう一度聞いた答えは予想通りだった。
「判ったわ。じゃ、綺礼。慎二お願いね」
暴れる慎二の持っていた本を燃やし、綺礼に預ける。
ライダーは桜の身が心配だと言って、先に教会を出た。
アーチャーと私と衛宮君という組み合わせで帰るのは心配だけど…
ここで悩んでいても始まらないので、桜の待つ衛宮邸に帰る事にした。
続く