走りこんでいったセイバーと、バーサーカーの凶器がぶつかる。
火花を散らすように弾ける両者の武器。
セイバーの方は視認出来ないけど、その名の通り剣。
バーサーカーの方は…石斧というか、古代の遺跡から出てくる黒曜石の鏃を大きくしたような…多分、剣なんだろう。
セイバーと対等に打ち合うバーサーカーも凄いけど、あの小さな体でバーサーカーの一撃一撃を弾くセイバーの実力も凄い。
私の魔術は詰めが甘すぎてセイバーの援護には向かない。
衛宮君は論外だろうし…
遮蔽物も何も無い場所だから、セイバーには不利だ。
かと言って道という道に氷をぶちまけるわけにも行かないし…魔術じゃ長持ちしないし。
あとは自分の射程範囲に到達したアーチャー次第なんだけど。
あの不可解なまでの衛宮君への憎悪をここで出さなきゃいいなーなんて思うくらい、セイバーの剣技は凄かった。
程なくしてアーチャーから準備が出来たと伝わってくる。
遮蔽物がないということはアーチャーにとっては狙いやすいということだ。
後は、命中させるに至るだけの隙を作ればいい。
「セイバー、惹きつけて!」
戦闘に釘付け状態の衛宮君の代わりに、私が指示を出す。
アーチャーにはセイバーの動きから放つタイミングを計るように伝える。
「無駄よ、魔術師の魔術くらいじゃバーサーカーは死なないわ。だって、私のバーサーカーは最強の英雄だもの」
対魔力が高い、のではなく。
イリヤスフィールは死なないと言った。
「死んじゃうんだから、教えてあげるね。あいつはギリシャの大英雄ヘラクレスなんだから、アレよりも有名な英雄なんていないわ」
余裕からなのか、イリヤスフィールはサーヴァントの真名を自ら告げた。
それは迂闊だと思う。
押されてるのは私たちだけど、イリヤスフィールは気づいていない。
あの子は、私のサーヴァントがアーチャーだということを、知らない。
だから、アーチャーの一撃が重要になってくる。
宝具を使ってでも倒さなければ、後の勝機は薄いだろう。
「遠坂」
思考の海にもぐっていて、始めは気づかなかった。
「遠坂」
戦闘に気を取られて、私は隣の相手が私を見ていることに気づかなかった。
「遠坂」
「うるさいわね、今策を練って…って、衛宮君?呼んだ?」
いかに真名を知ったからといっても、ヘラクレスでは宝具を特定することが出来ない。
せめてそれが分かればいいんだけど。
思考を続けながら、私はセイバーとバーサーカーから視線を逸らさずに、聞いた。
「呼んだ。三回くらい」
「策を練っていて気づかなかったわ、ごめんなさい」
「あれが…聖杯戦争ってもんなのか?」
衛宮君の声は恐怖は混じっていなかった。
戸惑いが大きいから、恐怖は消えてしまっているのだろう。
「そうよ。綺礼が言っていたでしょう?聖杯戦争とは言うけれど、実際は七騎のサーヴァントとマスターの争いだって」
戦争、とついているけれど、争うのは実際は七組。
ただ、その争いの規模が戦争並みに派手で大きいから。
聖杯をめぐる戦いは全てにおいて戦争と形容されるから。
だから、そう呼ばれる。
今なお続く二騎のサーヴァントのぶつかり合いに、何もできずにいる。
状況は良くはない。
いかにセイバーといえども、バーサーカーの力に押されつつある。
現に今、徐々に詰められて…
そこから離れろ、と頭の中で声がした。
何で?
「アーチャー、どういうこと?」


続く