言われた事が分からず、口に出して尋ねていた。
「遠坂?」
アーチャーの言葉と、衛宮君の呼び声。
その瞬間、セイバーがバーサーカーに弾かれて数十メートル飛んだ。
「セイバー!」
衛宮君の声で我に返った。
これが、合図だったんだ。
慌てて衛宮君の手を取ってバーサーカーから離れる。
今、アーチャーが宝具を使えばバーサーカーを仕留められる。
そのためにセイバーはわざと弾かれたんだ。
相手にばれないように、アーチャーの矢の攻撃範囲から外れるように。
バーサーカーがそれに気づいたのは遅かった。
私たちが離れたと同時に、矢が到着した。
到着なんて優しいものではなかったけれど…
アーチャーの放った矢はバーサーカーが叩き落そうと剣を振るって対したから直撃はしなかったけど、その衝撃は凄まじかった。
アスファルトを抉った、爆発痕。
バーサーカーは半身を失ってそれでも立っていた。
今のが直撃だったら、間違いなくA判定の攻撃だったと思う。
飛ばされたセイバーは何事も無かったかのようにバーサーカーを見据えて立っている。
セイバーが構えているということは、まだバーサーカーは息絶えてはいないのだろう。
見る見る間に回復していくバーサーカー。
イリヤスフィールが言っていた、死なないというのはこの回復力のことなのだろう。
「ふうん…気が変わったわ。バーサーカー今日は帰るわよ」
「決着はつけないつもり?イリヤスフィール」
新しいおもちゃを見つけた悪魔の笑顔。
ここにはいないアーチャーがいるであろう方向を見つめて笑みを浮かべたまま、イリヤスフィールは言った。
「セイバーはいらないけど、あなたのアーチャーには興味がわいたわ。だから、今日は見逃してあげる」
気まぐれな悪魔はそう言い残して去って行った。
「ラッキーだったわね…会ったのは災難だったけど」
緊張が解けて、私はほっとした。
イリヤスフィールの最後の言葉が胸にのしかかってくる。
アーチャーに興味が湧いたと言った、その真意が分からないから…不安になる。
「遠坂?大丈夫か?」
よほど酷い顔をしていたのだろうか。
「大丈夫よ、なんでもないわ」
衛宮君は心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
言葉は無いけれど、セイバーも心配げな表情をしていた。
「本当に大丈夫よ。敵は去ったし、戻りましょう?」
イリヤスフィールは去った。
けど、胸に残る焦燥は何?
次に会ったとき、勝たなければならない。
勿論、負ける気なんて無い…けど。
もしも負けてしまったら?
そしたらアーチャーはどうなるんだろう?
心配そうにしている二人を連れて、衛宮邸を目指す。
アーチャーは直接向かったのか、合流してこない。
こんな時、側にいてくれてもいいのに。
そしたら少しは安心できるのに…なんて、柄にもないことを考えて。
合流したら思いっきり文句を言ってやろうと考えながら歩いた。

続く