遠坂さんちの家庭の事情

13

あれから一夜明けて。
壮絶なまでの眠気と戦いながら、衛宮君の家の居間に到着する。
私の姿に驚いた桜が寄ってくる。
「どうしたんですか、姉さん」
「なんでもないわ…朝に弱いだけよ。牛乳もらえる?」
同じ血を分けた妹である桜はなんとも無いところを見ると、これは遠坂の魔術刻印による呪いだろうか?
ありえなくはない想像に、まだ本調子ではないんだと自覚する。
こうして見ていてなんだけど。
桜の気持ちに気づいているのかいないのか、衛宮君の行動は家族を前にしているものに近い。
前に家族にしてもらったと嬉しそうに桜が言っていたけれど、それって、こういうことだろうか?
二人並んで朝食を用意する姿は、仲のいい夫婦みたいにも見えるんだけど。
牛乳飲みつつ、居間から二人の様子を見ていて思った。
そうか、二人はそんなに進展してないんだな。
と、忘れていることが一つ。
毎朝眺めている顔を見ていないことに気づいて、居間から縁側へと移動する。
いつもは紅茶を入れて待っている、アイツ。
「アーチャー、いるんでしょう?」
普通に呼びかけて、私は現れるのを待つ。
空間からにじみ出るように姿を現して、アーチャーは私の前に立った。
「おはよう、アーチャー」
「ああ、おはよう、凛。今朝は早起きじゃないか」
失礼なことを口にしつつも表情は穏やかだ。
良かった、衛宮君の家に泊まったから、機嫌が悪いんじゃないかと思っていたんだけど。
「人の家でまで寝坊したりなんてしないわよ」
「それは良かった。もうしばらく様子を見て起きないようなら、起こさねばならないと思っていたからな」
屋根の上にいたわりには、私の状態を詳しく把握している。
「もしかして覗いた…?」
「人聞きの悪い言い方をするな。異常がないかを調べるのも私の役目だ」
もっともらしい事を言って、いつもの無表情を装うアーチャー。
絶対に今の言い分は出任せだ。
この家で異常が起きるのなら、ちゃんと警報が鳴っている。
それも無しに干渉して来るなんて無茶だろう。
つまり、アーチャーはただ覗いただけ。
「アーチャーが言うような異常って何よ?」
真正面から聞かずに、遠まわしに攻めてみる。
「聖杯戦争もある…何よりも敵は中にいるからな」
まあ、マスターが三人いる状態は確かに異常だとは言えるけど。
「でも。桜は妹だし、今回の戦争には協力者としての参加になると思うわ。衛宮君は…イレギュラーなんだけど」
明確に聖杯を狙っているわけではない衛宮君だけど、争いによる被害を抑えたいという理由ならば私や桜の協力者と言える。
まあ、アーチャーにとっては共闘とか、協力とかしたくない相手なんだろうけど。
「イレギュラーならばなおのことだ。何時どこで聖杯を欲するとも限らん」
アーチャーは無表情に言い捨てる。
でも、私には確信があった。
「衛宮君は…聖杯を悪用するようには見えないわ。私や桜と同じように、繋がったものを元に戻して本来あるべき姿に還してくれると思う」
この街にある聖杯は聖杯だけど、聖杯じゃない。
本来の機能を持った聖杯は当の昔に消滅して、今ある聖杯はちょっとした原子爆弾並みにたちの悪い代物になっている。
機能は失われていないけれど、願いによってはとんでもない兵器に化けてしまう。
それを阻止するために、私は聖杯戦争に参加をしたのだ。
「君がそういうのならば、私はこれ以上何も言うまい」


続く