「そういえばアーチャー、あなた、赤が好きなの?」
初めて会った時からの疑問。
聞く機会がなかったのと、思い出さなかったのとで聞きそびれていたんだけど。
「ん?…ああ、そうだろうな。好きというよりは、憧れていた色と言った方が正しいだろう」
予想していなかった質問だったのか、アーチャーは少し思案した後、答えた。
憧れていた色。
今朝の憧れの話もそうだったけど、そういった類の話をすると思い出すような眼をしている。
「アーチャーって、生前に赤い色のような女の人が好きだったの?」
ふと閃いて聞いてみる。
好きだった人が赤い服着ていたとか、イメージが赤だったとか。
「何を言い出すかと思えば…そんなことを聞いて、君は得するのか?」
「得と言うよりは…興味?アーチャーって、プレイボーイっぽいじゃない?だから、どうだったのかなーって」
少し呆れ気味のアーチャー。
「どこがプレイボーイっぽいのかな、凛?」
私の発言に何を思ったのか、意地悪そうな笑みを浮かべるアーチャー。
さっきまで呆れていたのに、こういう時の反応は速い。
「気障なところ…かな。それが素なのかは分からないんだけど」
素直に答えてみた。
気障で嫌みったらしい事を言っているかと思うと、急に真面目な顔で恥ずかしくなるようなことを言うのだ。
大人だから余裕があるんだろうけれど、こっちとしては動揺して身が持たない。
自覚してからはそれが顕著だから困る。
まあ、私が勝手にそうなっているだけなんだけど。
「ふむ、君は気障な男が全てプレイボーイっぽいと言うのかな?」
「まさか。それを天然で言うか言わないかで変わってくるわ。アーチャーは真面目な顔してそういう台詞を言うから、余計に思えるだけだもの」
気障な台詞はワザとだろうけど、真面目な表情で言うのはきっと天然だろう。
「なるほど。よく分かった凛」
何が分かったのかは分からないけれど、頷くアーチャー。
私といえば、少し複雑だったりする。
憧れている赤が誰なのかは知らないけれど、それはきっとアーチャーとお似合いの大人の人なんだろう。
私では追いつけないぐらいの。
そう思うと、ちょっと悲しい。
そんなことを思うなんて馬鹿だなって思うんだけど、自覚してしまったから止まらない。
「凛」
自分の考えに没頭していて、アーチャーの声が聞えなかった。
「凛」
気がついたのは四度目か五度目の声だった。
「何?アーチャー」
極力なんでもなかった振りをする。
「確かに、赤の色のような鮮やかな女性が憧れだったよ。私はそういう女性に縁があるようだ。君も赤が似合うからな」
珍しく皮肉もからかいもなく答えてくれたアーチャーの表情は、私の心臓には悪かった。
だから、それが反則だって言うのよ。
計算無しのそういう所が…動揺する原因なんだから。
「そ、そう。ほら、時間がかなり経っちゃってる、早くセイバーに持って行ってあげないと」
赤が似合うと言われただけで、ちょっと気持ちが軽くなってしまった。
好きな相手の一言で一喜一憂するってほんとなのね、なんて思ったりして。


続く