アーチャーの言うとおりに髪を乾かして、柳洞寺に向かう。
サーヴァントは正面からしか入れないから、山門を駆け上がる。
そこに、セイバーがいた。
「なんで…?」
私は思わず呟いていた。
「凛、ヤツは中にいるようだ。私は先に上から向かう。不本意だが、ヤツを何とかしておこう」
アーチャーは状況の悪さに衛宮君を意識している余裕がないのか、私の言葉も聞かずに駆けて行った。
山門の前にいるセイバー。
そのセイバーと対しているのは多分、サーヴァント。
長い日本刀を手にした、某剣客物に出てきそうな、剣士。
そのサーヴァントが、セイバーを足止めしていた。
「凛?」
私に気づいて声をかけるセイバー。
「衛宮君のことは心配しないで、アーチャーが行ったわ」
己の主を救う者が行ったと聞いて、セイバーは深呼吸して落ち着いた。
「セイバー、何のサーヴァント?」
「アサシンです」
振り向くことなく、答えるセイバー。
アサシン。
暗殺が得意なサーヴァント。
だけど…目の前のアレはアサシンとはいえない雰囲気をしている。
「あなた、本当にアサシン?」
「いかにも。召喚された己のクラスはアサシンだ。もっとも、正しきものではないのだろう」
表情を変えずに飄々と答えるアサシン。
気障っぽく見えるのは私だけだろうか?
「この山門から先へは通すなと言うのが我が主の命だ。もっとも、今一人通してしまったが」
焦るような言葉ではないのは、完全に主の命を遂行する気がないからなのか。
それとも、セイバーを足止めしているからそれでいいと考えているのか。
どちらにせよ、柳洞寺のマスターはサーヴァントを二人従えていることになる。
魔術で衛宮君を連れて行ったところを見ても、もう一人は間違いなくキャスターだろう。
セイバーを援護してあげたいところだけど、残念なことに私には小回りが聞くような援護手段がない。
なんというか、巻き込むような術しか持っていないのは我ながら複雑なところなんだけど。
「セイバー、すぐにかたがつく相手?」
「いえ…難しい相手です。アーチャーが来なければどうしたらいいか分からないところでした」
なるほど。
衛宮君を救出に行く暇がないほどの相手なのか。
それにしても長い日本刀だな…
「あなた、その剣の長さといい佐々木小次郎みたいね」
佐々木小次郎と言えば、宮本武蔵のライバルとして有名な剣士。
ただし、その存在の真偽は定かじゃないけど。
実在しなかったとか言われている剣士だから。
「知っているのか?いかにも、佐々木小次郎だが」
愉快そうに笑って、アサシンはあっさりと頷いた。
まさか、適当に言ったことが当たるとは思わなかった。
「凛、ササキコジロウとは何者なのです?」
どう見ても騎士なセイバーに知っているはずもない。
そんなに昔の話ではないし、第一日本国内でのみ知られる剣士だから。
「この国で有名な剣士の名前よ。必殺技はツバメ返し」
私が知っている範囲のことを告げる。
残念ながら、私が知っている彼個人の情報はこんなものだ。
有名だけど、宮本武蔵ほどに史実が出回っているわけではないから。
宮本武蔵のライバルだったと言う程度の情報しか知らない。
続く