遠坂さんちの家庭の事情

14

山門でセイバーがアサシンと睨み合っていた頃、境内ではふらふら来ちゃった士郎と助けに入ったアーチャー、奥様なキャスターが睨み合っていた。
「キャスター、一ついいかね?」
こめかみを押さえたアーチャーは、嫌そうな表情で尋ねた。
「何?下らない事でしたら却下しますが」
「その格好は何かね?小僧を操ってここまで引っ張った割にはいささか気が抜ける服装だと思うのだが」
エプロン、清楚なワンピース。
どこからどう見ても若奥様にしか見えない格好だった。
「仕方ないでしょう?思いついて実行に移してしまったんですもの。まあ、坊やが来ちゃったのは予想外でしたけど」
心底残念だと言いたげな視線を士郎に向けて、溜息をつくキャスター。
「予想外とは?」
キャスターに戦う気がないのを察してか、アーチャーは殺気をたたむ。
「私が呼びたかったのは可愛い子供です。坊やじゃ大きすぎるわ」
可愛い子供。
「…なんでさ?」
アーチャーと士郎の気持ちは同じだった。
広範囲に魔力の糸を張って、そこまでした理由が理解できなかった。
「私と宗一郎様の子供ですわ。当然でしょう?」
すっかり若奥様と化したキャスターは、恥ずかしそうにくねくねと体を捩りながら答えた。
アーチャーと士郎は思った。
聖杯戦争どうしたんだ、と。
「今日は失敗したからこれで終わりです。坊やは帰っていいわよ。これから夜食の準備が有るのだから、さっさと帰って頂戴」
勝手につれてきた挙句にこの台詞。
二人は呆気に取られていた。
「あなたたち、結構気が合うのではなくて?さっきから同じような行動をしていてよ」
二人の行動を見ていたキャスターは楽しそうに笑った。
顔を見合わせる二人。
『そんなことはないぞ!』
「どこが似てるのさ?!」
「こんな小僧と一緒にするな!」
と、見事なハーモニーでキャスターの言葉を否定した。
「ほら。後は二人で仲良くしなさいな。山門のアサシンは気が済めば通してくれるでしょうから、それまではゆっくりしてらっしゃいな」
どうみてもからかっているとしか思えない笑みを浮かべて建物の中へと消えるキャスター。
二人は言いたいことがあったが、諦めて溜息をついた。
「まあ良い、済んだのだから帰るぞ」
「言われなくても分かってるよ。…遠坂、来てるんだろ?」
なんとなく気まずい雰囲気の二人は、どうしていいのか分からず黙り込んだ。
「山門のセイバーについている」
アーチャーを見て、士郎は二人きりだという事に気づいた。
アーチャーと二人きり。
しかもアーチャーは自分を嫌っているどころか、殺そうと思っている節がある。
セイバーは山門で足止めされている状態…まずいのではないか?
「なんだ、衛宮士郎。今ここでけりをつけてほしいのか?」
心を見透かされたかのような言葉。
「お前はそうしたいんだろ?」
つい、喧嘩腰で答える士郎。
殺気がこもった笑みを浮かべて、アーチャーは士郎を見下ろす。
「そうしてやりたいのは山々だがな…今はまだ時期ではない。オマエがやりたいのなら受けて立つが?」
未熟者を相手にしてもつまらんと言い捨てたアーチャーに、士郎が反論しようとした、その時。
「こらーアーチャー!なに士郎を苛めてんのよ!」


続く