凛の怒鳴り声が響いた。
「遠坂?!足止めされてたんじゃ…?」
「足止め?セイバーだけよ。私は無関係だもの」
しれっと言ってのけた凛に、絶句する士郎。
「アーチャーが士郎のこと変に気にしてるから、心配して来てあげたんじゃない。キャスターの気配が消えたから、頃合かと思って」
「小僧を消したいのは山々だがな…それで君に制約をかけられても困るんでね。自制したんだが」
アーチャーは肩をすくめつつ、凛に説明した。
「あら、分かってるじゃない。士郎に怪我でもさせていたらそれなりの戒めをかけようと思っていたのよ」
手始めに家事禁止って言うつもりだったのと言った凛の笑顔に、わずかに表情を変えたアーチャー。
士郎は、アーチャーの弱点は凛だと理解した。
「ところで遠坂」
「なによ?」
助けに来てもらったのは理解している士郎だったが、凛の言葉に戸惑いを隠せなかった。
「気のせいじゃなきゃ、いつの間にか呼び捨てしてないか?」
「あら、気のせいよ。気のせい」
言葉は否定しているが、顔はばれたと言った感じの笑みを浮かべていた。
これ以上突いても無駄だと悟った士郎は顔を背けて…アーチャーと眼が合う。
眼が合ったアーチャーは殺気は有るものの、哀れなものを見たと言うような眼で士郎を見つめた。
「言いたいことがあるなら言えよ」
その態度が気に入らない士郎は凛が驚いているのも気にしないでアーチャーの突っかかって行った。
「なに、オマエでは凛の相手は務まらんと思っただけだ」
自信満々の返答。
「じゃあアンタなら務まるのかよ」
「無論。でなければ凛のサーヴァントなど務まらん」
自信のある一言。
だが、それは誇張でもなんでもなく事実そのものを言っただけだった。
なんとなく、負けた気がする士郎。
「ほんと似たもの同士よね、あなたたち」
からかいのない、感想が凛から漏れる。
穏やかな笑みを浮かべた凛に、反論しようとした二人は言葉を失ってしまった。
「…セイバーの援護はいいのかね、凛?」
話題を変えようと、アーチャーはセイバーが戦っているであろう山門の外を見た。
「逆に割って入ろうものならセイバーに怒られるわよ。相手も剣士だし」
真正面から正々堂々と。
それが騎士であるセイバーの戦い方。
そういう意味では、アサシンとして召喚されているものの、佐々木小次郎も似たような戦い方をすると言っていいただろう。
下手に割ってはいれば、後で恨まれかねない。
「気が済めば、終わるでしょう。それまで待ちましょ」
先ほどのキャスターの言葉を知っているわけではない凛の言葉に、苦笑するアーチャー。
「やはり君は最強のマスターだな。恐れ入るよ」
「あら当然じゃない。私を誰だと思ってるのよ」
自信満々に答える凛に、二人は敵わないな、と思った。


その頃のセイバーは、境内の和やかムードとは反対に、緊張を強いられたいた。
宝具を持たぬサーヴァントとはいえ、剣技のみで純粋に勝負を仕掛けたのなら、絶対に負ける。
アサシンはその位腕利きの剣士だった。
そもそも西洋と東洋では剣の扱いも、剣の刃の鋭さも違う。
西洋の剣は突きを主体としているのに対して、東洋の剣…日本刀はもっぱら剣の切れ味のよさで切ることに秀でている。
押すと引くの扱いの違い。
触れるだけでも身を削る日本刀は、懐に入るには厄介な得物だった。
それに加えて自身を上回る剣の技術。
長引けば長引くほど不利になると踏んだセイバーは、許されるのならば宝具を展開しようと考えていた。

続く