遠坂さんちの家庭の事情
3
一番初めに思ったことは、二人は絶対に相容れないもの同士なんだ、ということだった。
普段ヒトに対して敵意なんて持たない衛宮君が、敵意を抱いている。
初対面なのに、だ。
「衛宮君こそ、どうしたの?」
出来る限り二人を近づけたくはないので、間に入って間を取る。
「弓道部に弓の整備を頼まれたから、やってた」
答えは簡潔。
「お昼まだなんでしょ?早く行かないと昼休み終わっちゃうわよ」
私と衛宮君が話している間、アーチャーは無言でこちらを見ている。
振り向いて確かめたわけじゃないけど、視線を感じるから間違いないだろう。
「それは遠坂も同じだろ」
「まあ、そうなんだけど」
まだ、お弁当はアーチャーが持っている。
さっさと受け取って追い返すべきか?
「凛」
考えていると、横から声がかかった。
いつの間にか隣りに立っていたアーチャーは、私にお弁当を押し付けた。
「昼休みと言うのは時間が限られているのだろう?それならば昼食をちゃんと取り給え。私はこれで失礼する」
視線を交わすとけんかをしてしまいそうなくらいに見えたのに、アーチャーは冷静だったようだ。
「分かったわ。持ってきてくれてありがと」
依然、衛宮君の視線は厳しいものだったけれど、アーチャーがその場を去ったことで普段の雰囲気に戻ったようだ。
「遠坂、今の」
「家の召使みたいなものよ。気にしないで」
渡されたお弁当を持って、私は校舎に向かう。
「遠坂」
呼ばれた声に、一瞬誰が呼んだのかが分からなかった。
こうして聞いてみると、二人の声は似ている。
「昼、これからだろ?一緒に食わないか?」
それは意外な誘いだった。
桜の話では生徒会長と食べていると聞いたけど…
「柳洞君はいいの?」
「生徒会の用事で先生と打ち合わせらしい」
「ふうん…」
衛宮君て誘うようなタイプだとは思ってなかったんだけど…まあ、いいか。
「いいわよ。屋上に行くんだけど屋上でよければ」
「分かった、先に行っていてくれ。教室に行って弁当取って来る」
お昼を一緒にと言うのは丁度良い。
さっきのアーチャーとの事を聞くチャンスだ。
もっとも、向こうも聞きたいのだろうから、おあいこなんだけど。
そもそも従者が主人を呼び捨てになんてしないって。
言われたとおりに先に屋上へと向かう。
途中で何人かのクラスメイトにアーチャーの事を聞かれたが、父のロンドンでの知り合いが来ていると言って誤魔化した。
「お待たせ、遠坂」
屋上で座っていると、息を切らして衛宮君はやってきた。
「そんなに待ってないわよ。私も今来たところだから」
私の目の前に座り、急に挙動不審になる衛宮君。
何気に視線を合わせてくれないような気がする。
「どうかしたの?」
「ああ、いや…こんなとこ誰かに見られたら、どんな目に遭うかなと思ってさ」
そういいつつも泳いでいる視線。
心なしか顔も赤い。
やっぱり、予想通りなタイプだったんだと確信する。
続く