「大丈夫よ。誰にも見られてないし」
「学園のアイドルの遠坂と一緒に弁当食べてるなんて知られたら、明日から学校中の男子に凄い目で見られるよ」
依然視線はあまりあわないけれど、少しは慣れてきたらしい。
「ありがとう、衛宮君もそんな風に思ってくれてるんだ?」
「あ、と…」
自分の発言に気づいていなかったらしく、顔を真っ赤にして横を向く衛宮君。
アーチャーにもこんな時期があったのかと想像してみるけれど、全く想像できなかった。
初めから気障だったんじゃないのか?アイツ。
「さっきのやつの事聞くので頭一杯で、こういうシチュエーションになること忘れてたよ」
こういう、というのは二人きりと言うことだろう。
気づかないで言ってしまうあたりは衛宮君らしいというかなんというか。
「単刀直入に聞くけど、さっきの奴は本当に遠坂の…」
「正しく言うなら…執事っていうか…元々は父さんの従者なのよ」
どう説明していいものか迷う。
衛宮君が魔術師見習いなのは知っているけれど、彼は私が魔術師なのを知らないし…。
ここは使用人とか言って誤魔化した方がいいのかな?
「遠坂の父さんの?じゃあ遠坂本人の従者じゃないのか?」
「難しいところだけど…今は私の従者ってことになるわね。不本意だけど」
父さんは進んで彼を従者にしたけれど、私はそうじゃない。
父さんが亡くなったから自動的に私の所に来たのだ。
遠坂の当主に従うものなのだから仕方ないんだろうけど。
「従者…なんだよな?」
「そうよ。召使でも使用人でも何でも良いけど」
「名前…呼び捨てにしてたけど、それは」
「それは私がそうさせたのよ。マスターなんて呼ばれても困るし」
好きにしろって言ったら名前呼び捨てになったんだけど、その辺は伏せておく。
「質問は終わった?今度はこっちが聞くわね」
「ん?ああ」
まだ少し答えに納得がいかないと言いたげな表情の衛宮君。
「アーチャー…アイツのこと、嫌いなの?初対面よね?」
こっちもストレートに聞く。
「嫌いって言うか、アイツが敵を見るかのような目で見てるから、こっちも苦手意識が出てくるって言うか…」
本人もどういった感情でそういう状態なのかは分からないらしい。
でも、一つははっきりした。
アーチャーは衛宮君を知っているのだ。
だから敵を見るような目で見たり、名前に反応したりするのだ。
「ところで衛宮君」
昼ご飯を食べ始めてからの疑問。
「そのお弁当、衛宮君が作ったの?」
男の子の一人暮らしとは思えない、ちゃんとしたお弁当。
「そうだけど、なんでさ?」
「だって衛宮君一人暮らしでしょう?お弁当持ってきてるからちょっと驚いたのよ」
もしかすると三食自炊なのかな?
今時の男の子には珍しい逸材かもしれない。
将来は家事全般が得意な青年に育つんだろう。
「遠坂はさっきの奴の作った弁当か?」
「今日はね。いつもは自分で作ってるけど、アイツが来てから家事やっちゃうからやれないのよね」
ちょこっと愚痴を交えつつ、頷く。
「もうすぐチャイム鳴るわね。そろそろ教室に戻らないと」
「ああ、そうだな。付き合ってくれてありがとな」
「それはこっちの台詞よ。こちらこそ付き合ってくれてありがとう」
腕時計で時間を確認して立ち上がると、衛宮君は人の良さそうな笑みを浮かべて前を歩く。
午後の授業を受けて、それから…アイツともう一度話しをしないと。
また授業に身が入らないなぁと思いつつ教室へ向かった。
勿論、下へ降りるのは二人別々に。一緒にご飯食べていたと分かると衛宮君は困るようだし。
少し気分は重いけれど、何とか良い説得の仕方を考えないと。
続く