遠坂さんちの家庭の事情

16

それは、なんともいえない珍客だった。
衛宮君ちの塀の上に立ってる金ピカ。
何とかと煙は高いところが好きって言うけれど、まさしくそんな感じがした。
それにしても…頭はアレそうだし、存在としてヤバイけどあのサーヴァントは金持ちだ。
だから、よく分かんないけどアレはライバル。
勝手に決めた。
目の前にサーヴァントがいてこんな事考えてる余裕は普通はないんだけど、アレに関しては別。
だって、あのサーヴァント、セイバーにしか興味ないから。
第一声が、我のものになれセイバー!だったし。
よく分からないけど、セイバーフリークなんだろう。
それはいいとして。
私が考えないといけない問題は、一つ。
「ねえアーチャー、同じクラスが同時に召喚ってあると思う?」
金ピカはセイバーと押し問答&平行線な会話をしているので、聞えないように小声で聞いた。
「有り得んな。まずそんな例は聞いたことがない」
アーチャーの答えは簡潔だった。
「そうよねー。でもアイツ、間違いなくアーチャーらしいのよね」
私はセイバーの第一声を聞き逃してはいない。
セイバーは間違いなく、アーチャーと呼んだのだ。
自分のすぐ側にアーチャーが居たにもかかわらず。
「サーヴァントは全部揃ってるのよ…八人目なんて」
あのサーヴァントが何者なのか。
聖杯戦争のマスターとしてではなく、管理者としての疑問が首をもたげる。
ここの聖杯のキャパシティでは有り得ない。
無尽蔵な魔力を誇っていても、英霊を引っ張ってきて固定するとなれば膨大な魔力がいる。
それを七人分。
八人目なんて有り得ない。
「凛、気づいているか?」
「何?」
「あのサーヴァント、霊体ではない」
は…?
「何言ってんの、サーヴァントなら霊体でしょ?そりゃ今は実体化してるけど」
アーチャーのいう事が分からなかった。
「凛はあの男に見覚えがないか?彼女には見覚えがあったようだが」
アーチャーの視線の先には外に出てきた桜。
桜の表情は硬直していた。
「まさか」
「間違いなかろう。あの男はあの時のライダージャケットの男だ」
たしか、私はアイツが人間かとアーチャーに聞いた。
その時アーチャーは…
「サーヴァントの気配がなかった。感知できなかったが…」
あの姿を見る限り、サーヴァントなのは間違いない。
つまり、受肉したサーヴァント!
当事者二人は未だにかみ合わない会話を続けている。
会話というか、一方的な求愛に断固たる拒否って感じだけど。
「桜」
あの時は本当のことを聞かなかったけれど…
小声で呼ぶと、桜は側に来て姉さん実は…と話し出した。
「あの人、私に自分で死ねといったんです…」
「な…なんてヤツ」
失礼にも程がある。
「初対面よね?」
「はい。初対面でした。でも、あの人…私のこと知ってるみたいで…」
桜の答えは歯切れが悪い。
まあ、そんな暴言はいた人間なら顔を忘れたりはしないだろうし。
「終わったようだぞ」
見ると金ピカはセイバーに捨て台詞を吐いて立ち去ろうとしているところだった。
次に来たときには妻にするとか何とか。
去り際に金ピカは桜を見て嫌な笑みを浮かべた。
「まだ生きていたのか小娘。早々に命を絶てと忠告してやったのだがな」
そんな言葉を桜に投げた。
「お前の中には最悪なものがある。目障りだ、消えうせろ」
「さっきから言ってくれるじゃない。人の妹捕まえて消えうせろですって?」
堪忍袋の緒が切れた、そんな感じ。
「言っとくけど、八人目なんてお呼びじゃないのよ。アンタのほうこそ消えなさい!」
アレがどんなにやばいものでも。
大切なものをそんな言い方されたら黙っていられない。
「小娘、我に逆らうか」
「小娘じゃないわ。遠坂凛よ」
名乗った。
未だに嫌な笑みを浮かべている金ピカに。
金ピカの表情が変わり、それは予想外の物となった。
聖杯戦争しているマスターにしてみれば、私を知らないはずがない。
だから、ある程度の反応は想像していたんだけれど。
金ピカの反応は予想外だった。
「ほう、オマエがあの時の…」
それは、知っているかのような響き。
私は知らなかったのだ、金ピカと私の因縁を。

続く