「確証は無いが、それで召喚されるかもしれないサーヴァントに心当たりがある」
アーチャーは向かいに座って眼を瞑ると、数段声を低くして呟いた。
「どの英霊?聞かせて」
「不老不死を求めて旅をし、手に入れたのも束の間…蛇に取られた英雄に覚えはないか?」
「え?」
聞いた事があるような…
「私の記憶が正しければ、シュメールの都市国家ウルクの王、メソポタミア叙事詩の英雄」
「ギルガメッシュ?!」
私は思わず叫んでいた。
あの父さんがギルガメッシュを…有り得なくはないけれど、元々は暴君。
召喚に躊躇いというものがなかったのだろうか? 
確かにあの存在感、強さなら勝てるとは思うだろうけど…
「そうだ。それならば君の父上を知っていてもおかしくはあるまい?召喚者であれば名前も知っていよう」
確かに、アーチャーの言うとおりだ。
でも、だとしたら父さんは綺礼どころかサーヴァントにまで裏切られた事になる。
それはあまりにも…
「うっかりどころの話じゃないわ…ドジすぎる…」
これが遠坂の先天的な呪い…
よかった、下手に別の英霊召喚しなくて。
「英雄王と呼んでも間違いではないサーヴァントだが…やはり伝承の性格はよく考えて召喚するべきなんだろうな。君も召喚することがあるのならばその事に気をつけたまえ」
しみじみと呟くアーチャーは、歴代当主のうっかりを見てきたせいなのか、何度も頷くようにしていた。
ああいう時のアーチャーは自分に対して話しかけている時のアーチャーだ。
「ご忠告ありがとう。でも私は召喚しないし、する事があっても縁の品なんて用意しないわ。実力で強いサーヴァントを呼んで見せるわよ?」
もっとも、宝石とかに縁のあるサーヴァントだと引き寄せちゃうかもしれないけど。
「実に潔い召喚の仕方だな。だが…それならばやはり私が呼ばれただろうな」
アーチャーは眼を細めて私を見た。
少し笑ったかのように見えて、私は動揺する。
「な、何でよ…?」
どこの英霊かも分からない、変わったサーヴァントを私が引き当てるなんてそれこそ奇跡だ。
「それは…今はまだ言えない。だが、いずれその時が来よう」
一口紅茶を含むアーチャー。
「その時って何時よ?」
「分からん。だが、そう遠くはあるまい」
遠い眼をして呟いたアーチャーは、知らない人に見えた。
遠坂のサーヴァントでありながら常時いるわけではないアーチャー。
今は聖杯戦争中だから常時いるけれど、本来は非常時にのみ姿を現すサーヴァントだ。
それ以外の時に何をしているのかは私は知らない。
冬木は特殊な地だから何かが起きると抑止力が働く恐れがある。
聖杯による災害。
土地を利用しての魔術師としてはやってはならない行為。
抑止力が働く前にどうにかするのが遠坂の勤め。
その為のサーヴァント。
全てを聞きたいけれど、きっと答えてくれない。
益々悩みが増えたアフタヌーンティだった。


続く