着替えて、すぐに出るつもりだった。
先輩のことは心配だけど、姉さんの事も心配だから。
だって、相手はあのバーサーカーなんだし…
直接面識はない桜ではあるが、話だけは聞いておりその存在のカタチは聞いていた。
姉、慕う相手共に共通した印象。
絶望、と呼ばれたサーヴァント。
アインツベルンのことを知らないわけではない。
だからこそ、桜は急いでいたのだが。
「サクラ」
「外に…何かいるの…?」
異色の気配が現れた事は感じたが、それが誰なのかは分からない桜の表情を見て、ライダーは短く主に告げる。
「おそらく…ギルガメッシュでしょう」
ライダーの答えを聞いて、桜は身を硬くした。
暴言三昧、良い事ない相手である。
それは当然の反応と言えた。
「出て行けばまた、先日の二の舞となると思いますが…どうしますか」
それは桜も分かっている事だった。
ギルガメッシュの目的はセイバーだろう。
だが、別の意味でギルガメッシュに存在を気にされている桜は出て行けば命が危ない。
急ぎたいのに急げない状況。
「でも…行かないわけには行かないから」
桜はギルガメッシュを恐れている。
よくは分からないが、あれは危険な相手だ。
それでも表に出ると言ったマスターに、ライダーは頼もしくなったと感じた。
強い姉に庇護された妹と言った感じの強かった桜だが、ここにきて本来の彼女が顔を出し…結果、頼もしくなってきたとライダーは感じていた。
おそらく理由は衛宮士郎の聖杯戦争参戦。
「分かりました。ですが、危険だと判断した場合には逃げを優先しますよ、サクラ」
「ありがとう、ライダー」
内心反対されるんじゃないかと思っていた桜は表情を崩して胸をなでおろした。
いかにバーサーカー相手と言えど、セイバーとアーチャーがいるのだから危険を冒してまで行く必要はないと止められると思っていたのだ。
「行きますよ、サクラ」
「…はい。行きましょう」
離れの部屋を出て、庭に向かう。
気配があるのは庭に面した塀の上。
そこには空を背負った金色の王の姿があった。
不機嫌そうな眉が更に不機嫌さをます。
「セイバーが迎えぬ上にオマエが出てくるか…」
「セイバーさんならアインツベルン城にいますよ。この家にはいません」
人を殺せるほどの殺気を放っている金色の王に、桜は恐怖を懸命にこらえて答えた。
「そうか、バーサーカーとアインツベルンの小娘を先に消しに行ったのか」
実際には士郎を助けに行ったのだが、その事は黙っていた。
話すと不機嫌さが倍になりそうな気がしたからだ。
「では先に片付ける事にするか」
それは、バーサーカーの事ではなかった。
殺気の篭る視線が向いた先にいるのは桜。
「お前の姉は気づかなかったようだが…間桐に初めて連れて行かれたその日に、埋め込まれたのだろう?」
狂気に歪む口元。
それは桜の、唯一姉にいえない過去。
間桐に行って数日後に助けに来た姉が知らない事。
「聖杯の欠片を埋め込まれた、黒い聖杯。それがオマエだ」
「間桐の虫は取り去れてもそれだけは出来ぬだろう。いかに腕のいい神父でもな」
助けられたとき、入り込んでいた刻印虫は言峰綺礼神父が全て取り去ってくれた。
だが、心臓に近い部位に埋め込まれた聖杯はどうにもならなかった。
言峰神父はそれを桜に話し、関わらないようにしていれば大丈夫だと語った。
姉に余計な心配をかけたくない桜は、それならばと話さずにいたのだが…
現に巻き込まれ、自身もまたマスターの一人だ。
自身の魔術回路と繋がっている聖杯が起動しないはずが無く…前回の対面では本来の属性・影の力が暴走して発現した。
意識が暗黒面に傾いたのは聖杯が黒いと表現されるところにあるのだろう。
それも、自分の精神次第。
ここで押されたらまた、暴走してしまうかもしれない。

続く