「ちょっ、ちょっと待ってよ?!」
アインツベルンの場内に響いた凛の声は、その直後に起きた爆風の音にかき消された。
「まさかアインツベルンのメイドまで魔術の使い手なんて…無くはないけど…いやでも、ここまではありえないって言うか…」
爆風を起こしたのはイリヤ付きメイドのセラである。
突然の展開に凛の思考はついていけていない。
考えがまとまらないのか、一人ブツブツと呟く姿は少し危ない人に見えた。
少なくとも衛宮士郎の目にはそう映った。
後ろから走ってくるメイドと、ブツブツ言いつつ人間離れした速度で走る学園の優等生。
士郎自身は強化して走っているが、凛が強化の類の魔術を使っているのかは分からなかった。
「イリヤのメイドって一人かしら…」
「二人だったぞ、確か」
「何でそんな事知ってるのよ?」
呟きに答えた士郎に向かって、凛は怪訝気な目を向ける。
「さっき捕まってる時に見た。セラとリズって呼んでたぞ」
「そ、そう…」
この状況で呑気な回答を返してきた士郎に、呆れ気味な凛。
「なんかおかしな事言ったか、俺?」
「言ってないわよ。今必要ではない情報はついてたけど」
正面の大階段を駆け下りる二人の行く手を遮ったのはリズ。
「イリヤ、外に出すなって言ってた」
「こっちも攻撃魔術の使い手?」
「分からない…でも、魔術は使えるみたいだ」
「アインツベルンは錬金術に近いと聞いていたけど…これはちょっと予想外よ」
凛はセラの攻撃魔術がアインツベルンの魔術とは違っていたので、頭にあった作戦を練り直していた。
「よく見ると似てないか…?」
「え?」
「メイド二人とイリヤ。ほら、成長したらあんな感じになるんじゃないか?」
士郎の言葉に、凛ははっとした。
「もしかして…メイドもホムンクルス…?」
それなら、納得が行く部分もある。
宝石のストックもあるけど…
「衛宮様。この城内から出ないのであれば手荒な事はいたしません」
「いや、さっきのも十分手荒…」
追いついたセラが、士郎に話しかけた。
セラの言葉に反応して呟く士郎。
それに対して突っ込んだのは凛。
「遠坂…みぞおち付近を肘で打つのはやめてくれ…」
「そういう意味じゃないことくらい分かるでしょ。ようは、衛宮君さえここからでなければ良いって二人は言ってるのよ」
あくまでもイリヤスフィールは衛宮士郎を欲していると言う事だろうか。
それがどのような意味であろうとも、だけど。
「もう少しすれば桜が来るはずよ。それまでに出られれば一番いいんだけど…」
いくらセイバーがいるとはいえ、相手はあのバーサーカー。
合流して対処したい相手だ。
「セイバーたちは大丈夫なのか?」
「二人とも…まあ、コンビネーションは悪くなかったから…」
相手が相手だから不安はある。
でも、きっと大丈夫だと思うのだ。
「とにかく自力でここを脱出すればいいんだよな…」
前後をメイドに挟まれて、どう動く事もできない二人はきっかけを待っていた。

続く