響き渡る剣の打ち合われる音。
片方は純然たる西洋の剣。
もう片方は、剣とは言いがたい斧のような武器。
打ち合う少女のサーヴァントと大男ではくくれない巨体のサーヴァントの足元には無数の剣。
それは未だに己の正体を明かしてはいないサーヴァント…アーチャーが出したものだった。
機動性に優れたセイバーにとってはちょっとした障害の剣の群れだが、簡単には薙ぎ払えない重厚な剣の群れはバーサーカーにとっては十分に邪魔になるものだった。
巨大な剣の上を走り回るセイバーに比べて、そうした手段で剣を避ける事ができないバーサーカーは迂回しつつ動くしかなかった。
有利なのはセイバー。
だが、時間が立てばたつほど不利になるのは目に見えていた。
どれほどの攻撃を浴びせても回復してしまうバーサーカー。
それが宝具なのか特殊技能なのかの判断がつかず、二人は攻めあぐねていた。
いや、正しく言うのならば一人はそれを知っていた。
だが…それをどうセイバーにほのめかすのかが問題で、いまだ伝えられずにいた。
それを伝えれば、彼女はすぐにどうすべきなのか気づくだろう。
だが、衛宮士郎の魔力供給量では…現在の彼女の状態では使えば消える可能性もある。
やはりここは凛たちが合流するのを待つべきなのか?
それで無ければ、不本意ではあるがイリヤを狙うしか…
セイバーを援護するように弓を放ちながら、アーチャーは思考をめぐらせていた。
二人が戻れば問題は無くなる。
だが、ここで招かれざる者が現れないとも限らない。
たとえば、考えたくは無いが金ピカの尊大な英雄王とか。
イリヤがすでにバーサーカーの正体を話しているので、それとなく威力があるであろう武器を射つつ、位置を移動していくアーチャー。
打ち合いつつアーチャーと入れ替わるように移動していくセイバー。
いかに巨大な剣であろうとも、幾度と無くバーサーカーの破壊力に晒されていれば砕けてしまう。
セイバーの足場を確保し、バーサーカーの動きを鈍らせるためにアーチャーは足元の剣の群れを絶えず増やし続けていた。
それはまるで剣の墓場のように。
脳裏に浮かぶ自身の心象風景を思い出し、表情を無くすアーチャー。
幾度かヘラクレスを倒せるであろう武器を打ち込んだが、それらは全て蘇生され無効にされた。
異常なまでの蘇生率。
それが何時まで続くのかセイバーに教える事ができたなら。
表情には出さないものの、アーチャーはそう思っていた。
戦い始めてから随分と経っている。
そろそろセイバーの体力が落ちてくる頃だろう。
いくらアインツベルンの森であるとはいえ、凛たちの合流が遅く感じる。
「まさか…二人に何かあったのでは?」
すれ違いざまに耳に届けられたセイバーの言葉は、アーチャーの不安と同じものだった。
ありえなくは無い。
「だが、それならば凛から連絡が来るだろう。今のところは手間取っていると言うところだろうな」
心配を取り払うかのようにいつもの笑みを浮かべて答えるアーチャー。
セイバーはそれならいいのですが…と呟いてまたバーサーカーに向かっていった。
「…まあ、凛がちゃんと連絡をよこしてくれれば、だが」
それは聞こえない程の呟き。
嫌な予感を感じていた、アーチャーの自身への呟きだった。
続く