それは、一番会いたくなかった客だった。
衛宮邸でセイバーはアインツベルンにいると聞いた彼は、迷うことなく城に現れた。
セイバーのいない城に。
金ピカな、英雄王が。
城内はありえないほどの静寂と、重苦しい空気が流れていた。
誰でもいいから助けて欲しいなーとは思った凛だが、何でこいつが来ちゃうんだと思っていた。
対応していたのはメイド二人だが、険悪な雰囲気を漂わす英雄王に何かされるのは目に見えていた。
他人を心配している場合ではない。
最悪、二人に合流しないまま殺される可能性だってある。
というか、その可能性が高い。
「やばい事になってるな…」
小声で呟く士郎の言葉に頷く凛。
さすがにメイドなだけあって、偉そうな人の扱いには慣れている。
それでも限界はあるだろうし、げんにその限界が近づいていた。
「あ…」
業を煮やしたセラが果敢にも英雄王に魔術を放った。
扉の前で固まっている二人は、その光景に危機感を抱いた。
やばい、武器の雨が降る!
それは以前に経験したもののみが分かるその後の未来。
「どこかの下に隠れるかしないと」
「とりあえず、あの銅像とかの後ろでいいか?」
気づかれないように移動する二人。
「うわー、こないだの気配の数倍は出してるんじゃないの?」
出てきた過去二回において、未だに攻撃をしていない英雄王は余裕を持って腕を上げ、振り下ろすその時を図っていた。
我様な彼でも馬鹿ではない。
攻撃してきた方ではないメイド…つまり、リズは攻撃してはならないとちゃんと分かっていた。
その理由も。
「お前は殺さぬ。だが…お前に用はない、消えろ」
振り下ろされる英雄王の手。
その瞬間、武器の雨からセラを助けた物影が一つ。
英雄王の表情が険悪なそれに染まる。
「小僧、何のつもりだ」
銅像の陰に隠れたと思われた彼…衛宮士郎は何故かセラを武器の雨の外へと押しやるように自分ごと飛んでいた。
「ちょ、何考えてるのよ?!」
一番驚いたのは凛だった。
隣にいたはずの士郎が飛び出して行った時、我が目を疑ったのだから。
「誰かが傷つくのを黙ってみてなんていられないだろ」
凛は士郎の言葉に頭を抱えた。
最悪な未来、決定。
「あんたね、そんなことしたら次は自分だってわかんないの?!」
前門の金ピカ、後門のバーサーカー。
逃げ道なんて無いのだと凛は思った。
願わくば桜たちが向こうに合流してくれますように。
それに。
最悪の場合、士郎だけでも無事で返さないと桜がどうなるかと考えていた凛だった。
きっと桜はショックを受ける。
「ふん、小僧は確かセイバーのマスターだったな…丁度いい、この場で消し去ってやろう」
邪悪な笑みで英雄王は死刑を告げた。
続く