一旦教会に戻った彼がなぜ、アインツベルン城にいるのか?
それはたんに神父に行けばいいと言われたからだった。
いなかったのならばいる場所に出向けばいいだろう?難しいことではあるまい?
常人が聞いたら機嫌が悪くなる事間違いなしな言い方をして、神父は彼をこの場へと送り込んだ。
好き勝手にさせているが、性格を把握した上で操っているとも言えるのかもしれない。
そんな訳でやってきた英雄王はまたしてもセイバーの不在で機嫌が悪かった。
しかも、またしても不愉快な存在と決定している士郎に邪魔されたので機嫌の悪さもピークに達すると言うものだ。
今までに無い最悪なオーラを纏った英雄王を見て、凛はどうしたらいいのか混乱していた。
あんなのに勝てる人間…サーヴァントだっていないだろう。
いたとするならかの英雄王の親友くらいだろうが…残念な事に彼は英雄ではない。
今ある宝石のストック、令呪の使用有無、その辺を素早く計算して考える。
向こうに桜たちが到着していれば、一時的にでもアーチャーなりセイバーなりを召喚できる。
でも、到着していなかったら最悪だ。
かと言って今の状況を素直にアーチャーに告げれば士郎を見捨てろとか言われそうだし。
考えている間も英霊王の背後の武器は増えていく。
狙いは士郎とメイドの片割れ。
あのメイド、防御系の魔術はないみたいだし…
手持ちの宝石でもアレを防ぎきるようなのはない。
とはいえ、攻撃で弾き飛ばすのは…人二人分なら可能かもしれない。
ええい、一か八かだ!
凛のシークタイムと英雄王の準備時間は同じくらいだった。
思い立ったらすぐ行動な凛と、それなりに気長らしい英雄王の短気。
タイムだけなら両者はほぼ互角。
凛は指示を出された武器の群れが動き始めるのと同時に爆風を起こす宝石を開放した。
狙いは二人の前、英雄王との間。
二人に降り注ぐ予定だった武器が弾き飛ばされて、二人は風にさらされるも大きな怪我はない。
だが。
風に方向を変えられた武器のいくつかが凛の居る辺りへと飛んだ。
隠れていた場所から二人の所まで宝石を飛ばした凛は、自分の方へと飛んでくることを失念していたのだ。
「ばか、遠坂!」
ここ一番の大ポカをやらかして、ああ自分が死ぬかもなんて覚悟を早々と決めそうになっていた凛を呼ぶ声。
気がついた時には床に転がって、背中を打ったものの大きな怪我はない状態だった。
「…ふん、興ざめだ」
あくまでも自分の気に入らない展開が続いたので、今度こそ英雄王は教会へと帰っていった。
「何で私…衛宮君?!」
体を起こして見えたのは武器が数本刺さった血だらけの背中。
見慣れた赤毛、血の気が引いた顔。
「うそ、しっかりしなさいよ!あなたが死んだりしたら…桜がっ」
思わず声を上げて泣きそうになるが、留まる。
周りを見ればメイドたちも姿がない。
他にも血が広がっている場所があるということは、メイドのどちらかが怪我をしたのだろう。
「と…さか…無事か…?」
「何で私を庇ったりするのよ?!もうしゃべらないで」
途切れ途切れの小さな声を聞いて、動揺しながらも凛は胸元のペンダントを取り出した。
刺さっている武器を抜いたらきっと大量に出血する。
だけど抜かなければ治療は出来ない。
でも治療するだけの技術は私にはない…これを除いて…。
迷っている暇はなかった。
「抜くわよ、少し我慢してて」
本当なら少しどころの痛みではないはずだが、命が消えかけている士郎には痛みが伝わらなかったようだった。
全てを抜くと、すぐにペンダントを掲げて魔力を開放した。
「やっちゃった…」
怪我が治って平常どおりの呼吸をする士郎を見て安心した凛は今更ながらに呟いていた。
「まあ、アレを相手にして生き残れたんならマシよね…使わないで殺される方がもったいないし」
自分を説得するように呟いて、士郎の頬を叩く。
「んー…あれ、俺?」
「体に違和感はない?」
「あ、ああ。ないけど」
「なら、セイバーたちと合流するわよ」
士郎に質問する間を奪うように凛はせかす。
向かうはバーサーカーとの死闘の地。
些細な事に時間を使っている場合じゃない。

続く