桜たちが合流したセイバー組は、有利になりつつもやはり得体の知れないレイズに苦戦していた。
アーチャーはあと何回殺せばいいのかを把握していたが、それを口にするきっかけがつかめずにいた。
「ヘラクレスといえばナインライブスだと思うのですが…使った形跡は?」
「一度も。宝具らしきものは見ていません」
ライダーとセイバーがバーサーカーの宝具を見極めようとしているのを察知して、それとなく告げるタイミングを計るアーチャー。
「ヘラクレスの伝承には死なないというのもあったな。そういう宝具も有りなのではないかね?」
「まさか…」
宝具というには突拍子もない想像に絶句するセイバー。
「伝説の中では不死と言えども急所があって死んだ事になっている。もし宝具として機能するならば回数が限られている可能性もあるだろう。何しろ宝具なのだからな」
あくまでも確定的な言い方にならないように告げて、アーチャーはバーサーカーの足止めをする矢を射る。
身軽な二人は刺さった剣の上を飛び跳ねながら移動する。
この場所であれば宝具を使うことも可能だ。
だが、それが出来るのはこの場にマスターがいるライダーのみ。
アーチャーの試算ではあと数回でバーサーカーを倒せる。
セイバーの宝具を開放する事が可能ならば、一度で倒せるであろう回数だ。
「おまたせー!!」
バーサーカーの向こう側から聞えてきた声。
思わずアーチャーは攻撃をかいくぐり、凛の元へ向かっていた。
「決着はまだだったみたいね」
「だが、セイバーの宝具が開放されれば…ケリが付くだろう」
珍しく率直な意見を言うアーチャーに驚きつつも、凛は頷いた。
「衛宮君、いい?」
「ああ。それで倒せるのなら」
ならば、すぐに自分たちがどかなければ。
この森の中であれば宝具を開放しても迷惑はかからないだろうけど、一応念のために城で止まるように考えて移動する。
その間もセイバーとライダーは機動性を生かしてバーサーカーを翻弄している。
凛たちが移動しているのが分かっていても、そちらまでは回らない。
桜と二人が合流して、すぐ。
「マスター、許可を!」
何時の間にやらアーチャーから詳細を聞いたらしいセイバーがバーサーカーとの距離を取ると叫んだ。
「分かってる!セイバー、倒してくれ」
その声に引くアーチャーとライダー。
今まで不可視だった剣が、その姿を現す。
それは精霊たちに守られた、最強の剣。
黄金に輝く刀身が姿を現し、時を止める。
そして。
「エクスカリバー!!」
力ある言葉が放たれた。
その剣の秦の力を解放する言葉。
最強の宝具の真の名前。
決着は、付いた。
アーチャーの読んだ蘇生残数は四回。
ギリギリパワーが足りて、バーサーカーの蘇生は止まり…体は崩れていった。
「終わった…のね…?」
長かった気がする。
始まりは夕方、衛宮君の誘拐。
もう、時間は真夜中。
満月だったお陰で木の無いこの場所だけは見晴らしが良かったからいいけど…
森の中での戦闘だったら暗くて見えずらくて苦戦してたかも…
士郎が無事で喜ぶ桜だったが、背中の服の破れ方を見て異変に気づいた。
そして、異変に気づいたのはもう一人。
「凛、ペンダントはどうしのかね?」
「え?ああ、もう必要ないから置いてきちゃった」
「姉さん…もしかして先輩に…?」
「んー…まあね。もう過ぎた事だし、この話は止めましょう」
「姉さん、でも」
「いいのよ、桜。さあ、帰りましょう」
「遠坂、待った」
歩き出そうとしてた凛を止めたのは士郎。
「なによ、衛宮君まで言うの?」
「そうじゃなくて…イリヤスフィールは置いて行っていいのか?」
バーサーカーの居た場所で呆然と立ち尽くすイリヤスフィール。
「大丈夫よ、ここはあの子の庭みたいなものだし。メイドが迎えに来るわよ」
イリヤスフィールを心配している士郎に、当然の答えを返す凛。
だが、崩れ落ちるように倒れたイリヤスフィールを士郎は抱えて付いてきた。
「連れて行くつもりなの、衛宮君」
「ああ、だって…可愛そうだろ」
どこまでも能天気な答えに、頭を抱える凛。
帰ってから話す事が山積みだと悟った。
彼らがアインツベルンの森で死闘を繰り広げている中、町でも異常が一つ。
柳洞寺のキャスターたちが何者かによって襲われ…消滅していた。
続く