彼は、疾風のごとき速度で夜をかけていた。
セイバーと共に衛宮邸をたった彼…アーチャーは、ふと閃いて教会へ向かっていた。
そして、確信を得てマスターのいる場所・衛宮邸に向かっていた。
神父の不在。
記憶にある限りでは、神父が向かうのはただ一つ。
間に合って欲しいと夜をかける弓兵の表情に余裕はなかった。
それは、かつての記憶。
二人が生きていたとしても、あんな場面はもう見たくはない。
もっとも、その記憶が本来の彼の過去かどうかは疑わしいところだが。
日が暮れたらすぐに来るというのは随分と性急な気もするが、それだけギルガメッシュがセイバー相手に痺れを切らしているのだと言う事でもあるのだろう。
それに合わせて動いた言峰綺礼。
とうとう動き出したと言う事だが、そう考えるとランサーはどこで脱落したと言うのか。
もしここで出会うことが会ったならば。
考え事をしながら衛宮邸へ向かう速度を落とさずに駆けていたアーチャーの足が止まった。
衛宮邸の屋根。
その手前に見える姿は…
「…ランサー」
月の光に照らされて輝く深紅の眼。
獣を思わせるその姿は紛れもなくランサーその人であった。
「よお。乗り気はしねえが、マスターの言いつけでな。ここから先へは行かせられねえ」
「…お前のマスターは言峰綺礼か」
「ああ」
教会へ入ることを嫌がった、あの時の態度。
愚痴で聞いたマスターは男と言う言葉。
もっと早くその考えを持つべきだったとアーチャーは後悔していた。
「まあ、そうはいっても俺はただの時間稼ぎらしいがな。嬢ちゃんたちに用があんだとよ」
「違うな。実際に用があるのはイリヤスフィールのみだ。凛に用はないが…その場にいる以上、ただではすまさんだろう。そこをどけ、ランサー。さもなくば」
「俺を倒すってか。は、上等だ、いつぞやの続きをやろうぜ」
今までのランサーとは思えないほど生き生きとしているように見える。
「今までは本気で行けなかったが、お前とは二度目だ」
ランサーの手にある赤い槍が、目覚めたようにアーチャーには見えた。
「行くぜ!」
俊敏性ではサーヴァント中1、2を争うランサー。
素早く両手に使い慣れた双剣を出現させると、ランサーの攻撃をさばく。
「まったく、我ながら幸運の低さにはうんざりするな」
ランサーの槍を双剣で受け止め、呟いた。
「ま、幸運のなさはお互い様じゃねえか?俺から見れば、嬢ちゃんをマスターに出来た時点で幸運だと思うが?」
「ああ、それには同意する」
もっとも、凛をマスターにしたからこそ幸運を使い果たしたと言う考え方が出来なくもないが。
ランサーの猛攻をさばきながら、アーチャーは思考をめぐらせていた。
今ここでアレを使うべきか否かと。
続く