夜闇の中で響く競合う音。
初めて会った時の印象から、ランサーはアーチャーがただの弓兵だとは思っていなかった。
得体が知れなさすぎる。
まるで、本当は弓兵でもサーヴァントでもないかのような…漠然とした何か。
「さすが、槍兵のサーヴァントだな…」
平然とランサーの突きを捌ききったアーチャーが、表情を変えずに呟いた。
「お前こそ、なにモンだ?どこの英霊だ」
やはりストレートなのか、アーチャーに尋ねるランサー。
「そんな事はどうでもいいだろう?私がアーチャーだということに変わりはあるまい」
同じ質問をされて、内心は焦っているアーチャーは鋭い言葉でランサーの言葉を制した。
ランサーがいる限り、凛を助ける事が出来なくなるかもしれない。
凛を気に入っていたわりには呑気な男だ。
表面には出さないものの、内心の葛藤は凄まじいものだった。
脳裏を過る、赤に染まる凛の姿。
今こうしている時にも、凛は言峰綺礼からイリヤスフィールを守るべく、傷を負っているかも知れない。
「アーチャー」
ランサーの攻撃から身をかわしつつ考え事をするアーチャーに、話しかけてくるランサー。
「…なんだ」
何度目かの攻防の後、少し距離を取ってからそっけなく答える。
「お前なら、コトミネがアインツベルンの嬢ちゃん…バーサーカーのマスターだったらしいが、狙う理由わかるんじゃないか?」
「…お前は知らずにここにいたのか…」
相変わらず、分かりやすい男だ。
「オレは聖杯に興味はねーからな…今が望んだ時だってのもあるが」
「イリヤスフィールは聖杯そのものだ。願望をかなえる大聖杯そのものではないが、聖杯を開く鍵の役割をする」
過去の記憶から説明する。
「成る程な、だからコトミネが執着してんのか」
槍を器用に動かしながら、アーチャーとの距離を測るランサー。
どうにかして凛の元へいけないものだろうか。
挑発して本気を出させるか?
だがそんな事をしたらこちらもただではすまない。
下手に膨大な魔力を消費すれば凛にも気づかれる。
言峰綺礼はただの神父ではない。
どう考えても凛に勝ち目があるとは思えなかった。
そんな風に赤い弓兵が思案に暮れている頃、凛は凛で追い詰められていた。
遠坂凛は生粋の魔術師である。
いい意味でも悪い意味でも諦めがいいところがある。
色んな手を考え、結果諦めようかと考えていた。
「悪いわね、イリヤスフィール…勝算がないわ」
「リン…アーチャーを先行させたのが仇になったようね」
イリヤスフィールの言葉に、苦い顔をする凛。
いかに令呪のバックアップがあっても、あの場所からここまで来るにはタイムラグが出来る。
一瞬であっても、目の前の神父には十分な時間だろう。
教会の代行者と言うのはそういうタイプの化け物集団だというし。
でも、諦めるよりは少しぐらい悪あがきしないと気がすまない。
レイラインに魔力を通してアーチャーの呼びかける。
それすらも面倒だから、この際返事は無視して強制召喚。
「…来なさい、アーチャー!」
まだ諦めの表情を見せない凛に、少しは楽しめそうかと暗い笑みを浮かべる神父。
最後の希望すら砕かれたときの悲壮な感情。
それが神父の望むものだとは知らない凛だが、なんとなく感じ取って思い通りにはならないと思っているあたりは…なんとも。
そんな凛だからこそ神父がその瞬間を望んでいると気付かないあたりも凛だったりする。
家の中と外で膠着状態な頃、対ギル戦の彼らには一つの変化が起きていた。
それが始まりの鐘なのか、それとも全ての終わりを告げる鐘なのかは…誰にも分からない。
続く