それは突然の事だった。
令呪による強制召喚。
一瞬にして掻き消えたアーチャーに、ランサーは訳が分からなかった。
それと同時に聞えてくる、ランサーへの命令。
命令に従って、ランサーは衛宮邸に入った。
凛の前に現れる赤い姿。
それを追って来た青い姿に、凛は言葉を失った。
「ランサー?!」
それに驚いたのはイリヤスフィールも同じだった。
「コトミネ、あなたサーヴァントを二騎有しているの…?」
ありえない。だけど、この神父ならありうる。
「有していると言うのならばこのランサーのみだ。ギルガメッシュは私からの魔力提供は受けていないからな」
やや引っかかる物言いだが、今はそれを突っ込んでいる場合ではない。
アーチャーの召喚で形勢逆転かと思われたのも束の間。
ランサーが付いてきたら変わらないじゃないの!と凛は心の中で思った。
…まあ、彼らの連携が無さそうなのは助かるけど。
どうせ守って死ぬなら男じゃなくてやっぱり美姫だよなー
などとのたまっていた人である。
間違いなくランサーは綺礼が嫌いだと凛は思った。
嫌いだろうがマスターである以上は従わないといけない。
ランサーの表情は不服だと物語っていた。
「あなたがランサーを召喚できるとは思えないんだけど…繋がるものを持っていたの…?」
イリヤスフィールは疑問をさらりと口にした。
何も無しで召喚できていたら、それはそれで怖いけど。
「それには答えかねるな…ランサーを選んだのは私ではないのでね」
神父の言葉にピクリと眉が動いたランサー。
これはもしかして…
「あんた…もしかして令呪を奪ったとか言う…?」
それならこの二人のぎこちなさその他諸々にも納得がいく。
何よりも、サーヴァントを二騎も従わせている時点でその線が一番ありえるんだけど。
「ああ。隙だらけだったものでね」
それだけではあるまい。
私欲を満たさんが為に、奪ったに違いない。
いつも不服そうな表情でマスターを語っていたランサーにとって見れば、綺礼は本来のマスターを襲った敵。
従いたくないのは当然だろう。
「無理矢理令呪で従わせてるわけね?実にアンタらしい手口だわ」
表情は、余裕を持って笑みを…とは行かなかった。
あの忠実な騎士(軽くは見えるけど)なランサーが、敵であった相手に仕えるなどということは許しがたい状況なはずだ。
ランサーと言う人物を知っている私には、笑みを浮かべて語る事が出来るはずがなかった。
アーチャーはきっと甘いと言うだろう。
でも、これが今の私だから。
アーチャーも思うところがあるのか、何も言わない。
嫌な笑みを浮かべる神父と、対照的に無表情なランサー。
感情的に怒ってる私と感情がない顔をいつものように見せているアーチャー。
気持ちの悪い硬直状態が続く。
隙を見せたらランサーにイリヤスフィールを攫われても嫌だし。
思えば、さっさと逃げるなりしておくべきだったのかもしれない。
屋敷に残らないでセイバーと一緒に行っていたら、この事態は避けられたのかもしれない。
悔やんでも悔やみきれない状態が起きたのは、硬直状態の最中だった。
「…?ギルガメッシュの令呪が…消えたな…」
それは、感情のない呟き。
別段驚いたわけでもなく零れた言葉。
でも、それは私達にとっては戻る事のできない事態を知るには十分な言葉だった。
続く